俺TUEEEEEがしたい② ※閲覧注意

 困ったことになった。

 いや、スキップして成人した状態からは始められたんだが……。


 何故か玉座っぽい椅子に座っているんだ。

 しかも女々しい男の従者っぽい人を侍らせて。


「王よ。今日の業務はここまでにして、そろそろお休みになりましょう。……私の個室で」


 何だこの状況。

 たぶんこいつから、夜のお誘いを受けているんだろうが……。

 俺は男食家じゃないし、王でもないんだが。


「いや、少し1人にしてくれ」


「そうですか……。畏まりました」



「ふぅ……。やっと1人になれた。これで集中して考えられる」


 まずはメニューを開く。

 心で唱えれば開くみたいだ。

 項目は3つある。

 『ステータス』『所持品』『ログアウト』

 まずは『ステータス』から見よう。


 『ステータス』


 名前 王

 年齢 10歳

 職業 王

 資金 ありません

 状態 洗脳

 祝福 ありません


 服装 なし


 スキル なし

 ――――――


「は?」


 どういう状態だ?

 名前が王で、しかも洗脳されてるって?

 俺の目にはちゃんと服を着ているように見えるのに、なしになってるし。


 『所持品』も何もなかった……。


「まじでどういうこと?」


 あいつに聞けばわかるかな。

 さっき断った従者。



「なぁ、いるか? さっきは断って悪かった。少し話したいことがあるんだが……」


 ノックしても返事がない。

 通りすがりのメイドに聞いたから、場所はあってるはずなんだが。


「入るぞ。――って何してるんだ!」


 先程の従者が、自害しようと首にナイフを突き立てていた。

 さすがにPKがしたい俺でも、NPCは違うと線を引いてるからな。

 悪いが遂行させないぜ。


 ナイフを手から奪い取り、所持品の中にしまう。

 武器が手に入ってラッキーかも。


「王が……王が私を断るから! 私は、王に必要とされてたから生きれてたのに! 王にいらないって捨てられたなら、死ぬしか無いんです!!」


 おっと。

 もしかしてこいつ、ヤンデレってやつか?

 いや俺を殺す対象としてないから違うか?

 わからんがとにかく落ち着かせるか。


「俺はいらないって言ってないんだけどなぁ……。まぁとりあえず落ち着けよ」


 背中を撫でてやる。

 スンスンと鼻を啜りながら、無事落ち着いたようだ。


「取り乱しました。……すみません、王」


「いい。それより聞きたいことがあってな」


「なんでしょう?」


「なんか俺の状態が『洗脳』ってなってるんだが、何か知らないか?」


「……それを教えたら、一緒に寝てくれますか?」


 なんか沈黙の間にニヤってしなかったかこいつ。


「あぁ。寝るだけならな」


「では、お教えいたします。『洗脳』というのは、頭を理性で制御することが不可能な状態です」


 あ?

 いま実際制御しているが?


「嘘ついたのか?」


「いえいえ! その『洗脳』とは常時発動ではなく、特定の条件下のみ発動します。例えば……」


 そこまで言い、そいつは服を脱ぎだした。


「何して――」


「【王よ、一緒に寝ましょう?】」


 その言葉を最後に、俺の意識は無くなった。





「あははっ。……本当に馬鹿だなこいつ」


 俺が見下していたのは、さっきまで王と呼んでいたヒト。


「今までもそうだったが、異界の魂が入った今でさえ、俺と交尾できると勘違いするとは……滑稽だな」


 王という名前の種族はヒト。女神から見捨てられた動物だ。

 こいつは産まれたときからヒトを束ねることが決定されていた。王という名の父から生まれた王という名の子だからな。

 そして順当に馬鹿に育った。

 ヒトがそもそも馬鹿な生活をしていると言える。

 王がやる業務は唯一つ、子を為せるヒトを見つけ交尾をすること。ただそれだけ。

 国民などいないし、なんならただの近親相姦だ。ヒトは現在5人しかいないからな。

 女神がはるか昔に定めたヒトの寿命は50年。今は長く生きられて20年。

 生命力が弱いから多くの子種を残す、まさに動物。

 どれだけ多くの異界の魂がヒトになるか分からないが、増えてもせいぜい100人程度。


「今夜は貴方がお相手だそうです。王の部屋へ行ってらっしゃい」


 5人しかいないヒトを増やすのが私の仕事。

 無論、洗脳しているのは私だし、自害しようとしたのも演技だ。

 なにせあいつは――だからな。

 こちらが場を整えないと交尾しようとすらしない。

 故に洗脳させて、見たものを襲わせるようにし、他の4人のヒトを私の部屋へ送り込む。

 そうすると他の4人も洗脳されるのだ。


 実質私が王みたいなものだね。

 まぁ動物なヒトとは交尾などしたくもないが。

 そもそも触らせていない。強力な結界で我が身を包んでいるからな。

 ヒトでは薄い透明な壁としか、認識できないだろう。そもそも気づかないかもな。


 さて、そろそろ種明かしをしよう。

 私はヒトではない。龍族だ。


「貴族の四席が一席、『男爵』のコクです。お見知りおきを」


 目の下にある、今現在交尾中であろう部屋の王に挨拶する。


「現在の任務は皇王陛下から直に受けました『ヒトの見張りをし、数を増やせ。どんな手を使っても構わん』を遂行中でございます。そして」


 龍人姿になり、空で優雅に礼をする。


「『世界中の負の感情を発散させる動物にするように』とも頂いています。これがどういうことかお分かりにならないと思いますが」


 頬に手を当て、最大限に嗤う。


「下位種族たちの的になるように、命の数を増やし、弱いまま死ね。ということです。下位種族たちは皆、戦って殺すことでストレスが発散されるみたいなのでね」


 届くはずもない高度で、1人嗤うコク。

 彼はストレスを発散させていた。

 その影を見守る4人。



「主様、日に日にストレスが溜まっていって……」


「しゃーないって。でも、異界の魂が入ったんだろう? もうそろ勝手に増えんじゃね?」


「……どうやら交尾を終えたみたい」


「お前、よくヒトの汚い交尾見れるな」


「あれにはならないって思えるから」


「そうか……。ヒトも元は理性ある種族だったらしいけどなぁ」


「今じゃ裸体でうろつく性欲動物っすもんね」


「……主様、お早めにお戻りください。部下たちが、汚い単語ばかり使うように……」


 こうして夜は更けていく。

 ここではこのように――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る