第拾話 相棒との出会い

「…………起きた〜?」


 パチっと目を開ける。


 おかしいな。

 久しく聞いてなかった人の声がする。


「……大丈夫〜?」


 声の聞こえる方へ、バッ! と振り向く。

 そこには小さな羽の生えた人? がいた。


「……え?」


 人の声がする! 自分の声が聞こえる!

 え? なんで?

 耳が聞こえなくなったはずなのに!

 だから! アイドルの文化がまだ芽生えてなさそうな時代のゲームを選んで! そこで! 耳が聞こえないアイドルが『普通』だと思わせる計画だったのに!

 嬉しいけど、どうして?

 目の前の人? なら知ってるかな?


「ごめんね。ちょっと混乱してて……。私が元いた世界では、耳が聞こえなくなってたから……」


「? 転生したからだよ?」


 さも当然のように言うねぇ……。

 でも違うんだ。この世界では『転生』扱いかもしれないけど、現実から見たらただゲームを『遊んでいる』だけなのよ。

 だから現実に戻ったら、また耳が聞こえなくなるはずで。

 でもそうなると、この状況に説明がつかない……。


 NPCにもひとりひとりAIが搭載されていると、CMでは見たから、運営に咎められるかもしれないけど聞いてみるか。


「落ち着いて聞いて欲しいんだけど、この世界、実はゲームの世界なの」


 ぱちくり、と瞬きをした彼女は、首を傾げているようだった。


「う〜ん……。詳しく」


「私は【地球】って名前の星にある『日本』っていう国から、このゲーム【神の理想郷】を遊んでいる状態で」


 地球って単語は知っているのか、反応を少し見せた。

 ならそっちを使うか。


「地球の私は、原因不明の病気で両耳が聞こえなくなったの。で、アイドルっていう職業に就いてたんだけど、歌って踊るから自分の耳が聞こえないと歌えてるかどうか分からなくて使い物にならないでしょ? でもアイドルを諦めきれなくて、アイドルの文化が無さそうなこっちの世界、【神の理想郷】でアイドルを広めようと考えて遊んでいるわけ」


 まぁ、耳が聞こえる時点で計画は少し変更するけれど。

 それに私は耳が聞こえなくても、アイドルはできると踏んでいたし。

 だけどあの裏切り者が……っと。


 考え込んでいた彼女が結論づけたみたい。


「貴女の名前は?」


 ここでプレイヤー名を名付けるのか。

 容姿を全く見れていないけれど、元々決めている。

 私の大好きな色。


「さくらだよ」


「さくらね! さくらの状況は大体わかった! いずれ女神が話してくれるから、今は報告しに行こ!」


「へ? どこへ?」


「さくらは新種族の『天使』に転生したんだから、世界を統べる王の元へ行かないと!」


 さぁ、早く早く! と考える暇もなく手を引っ張られる。


「王ってだれぇええええ!?」


 何故か私、空を飛べているんですけど!?

 彼女と手を繋いでいるから?


「そりゃもちろん、龍族の王だよ!」


 そんなもちろんって言われても、この世界の常識なんにも知らないんだってぇ!

 いやぁああああ! 下見ない! 下見ない!

 高所恐怖症にはキツいよー!!

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