第玖話 生命の選択『天使』
ゲームを始める前に私は覚悟しなければならない。
『まるで本当に存在する異世界みたい』だとか『知識を持ったまま挑める転生物語』だとか評判のこのゲーム。
ここでも希望が持てなかったら――。
〈いらっしゃいませ。今作品『神の理想郷』をダウンロードしていただき、誠にありがとうございます。私のことは『案内人』もしくは『AI』とお呼びください〉
目を開くと、真っ暗な背景に文字が表示されている。
目に優しい緑色みたい。
〈『神の理想郷』についてご説明させていただきます。スキップしたい方は『スキップ』と心で唱えてください。…………それでは説明をいたします〉
発売から数日経ってはいるけれど、まだまだ情報は集まっていない。
攻略サイトすら出来ていないし。
〈この世界は主に5つの種族が存在します。エルフ・クジラ・鳥・コウモリ・ヒト。『エルフ』は魔法を扱うことができ、妖精や森と親和性があり、爽やかな空気を宿しています。『クジラ』は楽器を扱うことができ、水や海と親和性があり、穏やかな空気を宿しています。『鳥』は暗器を扱うことができ、精霊や空と親和性があり、静かな空気を宿しています。『コウモリ』は血を扱うことができ、死者や地下と親和性があり、冷たい空気を宿しています。『ヒト』は動物です。5種族はそれぞれ違う土地で暮らしており、エルフは『地上世界』に。クジラは『海上都市』に。鳥は『空中都市』に。コウモリは『地下世界』に。ヒトは地上の広範囲に。さて、どの種族を選びますか?〉
(……少し、吐露しても良いでしょうか)
〈はい。構いません〉
(私はこの世界に希望を抱いてきました。現実では使い物にならなくなった、元地下アイドルです。でも、存在している異世界と言われるほどのこの世界なら叶えられるんじゃないかって。耳が聞こえなくなった私でも、誰かをまた勇気づけられるようなアイドルができるんじゃないかって。……打算ですけれど、アイドルに向いている種族でお願いしたいです)
〈……返答に時間を要します。お待ちいただく間、好きなメニューをお選びください〉
その文字を読んだ途端、真っ暗だった背景が明るくなり、目の前にメニュー表が現れた。
〔メニュー
・赤のおすすめ トマトジュース
・黄のおすすめ レモンティー
・青のおすすめ ウォーター
・緑のおすすめ 緑茶
・茶のおすすめ 烏龍茶
・白のおすすめ 飲むヨーグルト
・黒のおすすめ ココア 〕
AIだからと早急すぎたのかな。
とりあえず気持ちを落ち着かせるために、何か頼もう。
(『白のおすすめ 飲むヨーグルト』でお願いします)
カランカラン。
何もない空間から、少し先にある机に頼んだものが置かれた。
椅子に座って休憩しよう。
〈もう少々お待ちください……〉
表示された文字をよく見る。
『……』の文字の後ろに、小さく光る緑色の球と、白色の球がふよふよ浮いている。
かわいいなぁ。
〔追加メニュー
・赤のおすすめ いちご
・黄のおすすめ バナナ
・青のおすすめ ぶどう
・緑のおすすめ マスカット
・茶のおすすめ キウイ
・白のおすすめ ナシ
・黒のおすすめ チョコ 〕
新たなメニューが表示された。
(『赤のおすすめ いちご』でお願いします)
コトン。
空けていたスペースにお皿が置かれた。
モグモグと食べながら、周りを見る。
真っ白の空間に机と椅子があるだけみたいで、変化があったのは、緑色と白色の後ろに新たな赤色の球が増えている。
〈お待たせいたしました。精査しましたところ、解放条件が整いましたのでご紹介いたします。……先程ご紹介しました、4種族の上位種族が開放されました。エルフの上位種族である『ハイエルフ』。クジラの上位種族である『シャチ』。鳥の上位種族である『龍』。コウモリの上位種族である『吸血鬼』です。ハイエルフは『魔術の向上』を、シャチは『芸術の向上』を、龍は『武術の向上』を、吸血鬼は『占術の向上』を担っています。――そして女神から新たな提案です。アイドルを目指す貴女様に特別な種族、『天使族』を。……さて、どの種族を選びますか?〉
AIが私の考えを汲んでくれたのかな。
ここは乗るしかない!
(天使族でお願いします!)
〈かしこまりました。では、転生を始めます。質問はありますか?〉
(……また、あなたに会ってもいいですか?)
〈――えぇ。貴女様が望む限り……いってらっしゃいませ〉
〈…………必要な魂が5人全員揃いました。――やっと、この世界を動かせます〉
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