第肆話 兄との出会い
「う……」
「あ、見て! 動いたよ!」
声がした方に振り向いたら、そこには小さな男の子がいた。
「かわいいなぁ……。手もぼく、じゃなくておれより小さい……」
シャチを選択したと思うんだけど、この男の子は誰だろう……。
手を見ると僕の手は人間の赤ちゃんのようになってる。
たけどこの男の子は、耳が少し魚類のような見た目をしている。
「坊ちゃま。弟様ができて嬉しいのはわかりますが、もう20年も毎日見続けられていて、いい加減弟様にも飽きられますよ」
「むぅ……。弟に呆れられてはこまる。でも、ぼくがのぞんでできた子だ!」
「えぇ。ですがそろそろ坊ちゃまの勉強も、本腰に入る頃と聞き及んでおります。弟様も自我が生まれる頃ですし、少し会う時間を減らしても良いのでは?」
「あぇ?」
もしかして、この子は僕の兄?
……兄にはあまりいい思い出がないんだけど。
「――は! ごめんよライト。大きな声出しちゃって。……あれ?泣かない?」
「ふむ。自我が芽生えたようですね。……王様と王妃様にご報告しましょう」
えっと、まずは情報を整理しよう。ちょうどお話も終わったみたいだし。
最初に見た小さな男の子、『坊ちゃま』という単語から貴族か何かだと思っていたけれど、まさか王族だとは。
で、その子の弟なわけだから、僕も王族なわけで……。
よくある物語だと『王位継承権』だとか『派閥』だとか、とてつもなく面倒くさそうなことばかり。
ここの国がどんな文化体系をしているかまだわからないけれど、平和に暮らしたいんだ。
争いはしたくないし、できればあの子とも険悪な関係にはなりたくない。
…………なんか、20年も毎日見続けたとか聞こえた気がしたけど、無視しよう。うん。
だって、家族の中にストーカーがいるなんて思いたくない。
ただの幼児の可愛さにやられているだけだ。うん。
あの子も可愛かったけど。
情報整理を一旦遮断し、聞き耳を立てる。
メイド長みたいな人は耳にしていたイヤリングみたいなもので連絡を取っているらしい。
携帯電話みたいなものかな?
「シャイン様、王妃様が来られるそうです。服装を正しましょう」
「うむ。……ライトはそのまま?」
「えぇ。そろそろご飯のお時間ですので」
「あぅ」
確かにお腹が減ってきたかも?
「よかったねぇ。ライト」
王妃様と呼ばれていた人からミルクを飲み終わったあと、これからは離乳食だと言われて安心した。
さすがにちょっと高校生が母乳を飲んでるように感じられて、拒絶しそうだったから。
シャインというこの子が僕を褒めているのは、たぶんステップアップしたからだろう。
ミルクから離乳食に。
「ねむい?ライト」
世界が違うだけで、兄という存在はこんなにも違うのか。
シャインは僕の名前を呼ぶたびに、嬉しそうな顔をする。
そんな顔で呼ばれたら、拒否れないじゃないか。
こんな大事にしてもらっているんだから。
「おやすみ……ライト」
「任務は終わったかい?シャイン」
「うん!」
ぼく……じゃない。おれは弟のライトを見守るっていうにんむをおえたばかりなのだ。
ほんとうはもっと見ていたかったけれど、とうさまに呼ばれたからね。
「ライトに自我が芽生えたことは嬉しいことだ。そこでだシャイン。君に重要な任務を与えよう」
じゅうようなにんむ!
とうさまがこの言葉をつかうときは、おれが王子としてうごくことをいみしているのだ。
「それはそう、ライトの身を守るために護衛術を学ぶことだ」
「ライト!」
「シャインは今、護身術を学んでいるだろう? 成績は上々だと聞いている。だからこそ自分を守る術から、人を守る術に移行するのも悪くはないだろう?」
とうさまのお話はむずかしい。
でもおれにわかりやすいように話してくれている。
だからがんばってりかいするんだ!
「うん! おれ、ライトを守るよ!」
「よし、いい子だ。頑張るんだよ」
「はい! しつれいします!」
「よろしかったのですか?」
「なにがだい?」
「まだあの子には早かったのでは?」
「なぁに、本当に護衛術を教えるわけではない。まだ護身術も教え終わっていないのだから。……ただ、ライトを守るためといえば、学ぶ意欲が高まるだろう?」
「まぁ、あなたって人は……」
「身体は大丈夫かい?」
「えぇ。もうばっちり動けますよ!」
「では、赴こうか」
「はい! 『龍皇国』でしたね」
「あぁ。『五大王種族定例会議』は対面開催だからな」
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