夜道の人食い

ねこじゃ・じぇねこ

第1話

 女一人で夜道を散歩するなんて、危険なことだと皆様は思うでしょう。

 けれど、これには三つの訳があるのです。

 一つ、私は明るい世界が苦手なのです。明るさの下に姿を晒すと、途端に眩暈がしてしまう。

 二つ、私は人混みが苦手なのです。人の多い場所にずっといると、段々と不安になってしまう。

 三つ、これが重要です。私は人を探していたのです。


 繁華街などとは違って、手つかずの野山が残された住宅地の深夜は静かなものです。

 都会暮らしの方の中には、虫の声が気になると仰る方もおりますが、暮らしなれた私にしてみれば、それはもう背景のようなもの。取るに足らない存在です。

 そんな夜道を歩く人なんて殆どおりません。

 しかし、たまにいらっしゃるのです。

 危険を承知で敢えて彷徨うお方が。

 そう、危険を承知で、です。何が危険なのかまだ分からない子供や、分からなくなってしまった人ではありません。

 分かっていて尚、自暴自棄な気持ちで彷徨う方がいらっしゃるのです。


 私が探しているのは、そういう方でした。

 

「ねえ、あなた。夜道は危険ですよ」


 その日、見かけたのは若い女性の方でした。

 道端で蹲っていた彼女に私が話しかけると、彼女は酷く淀んだ瞳でこちらをじっと見上げてきました。

 もしかしたら、まだ少女かもしれない。彼女の顔立ちの端々にそういった幼気なものを感じ取りつつ、私は視線を合わせました。


「お家の人と喧嘩でもしましたか? 私で良ければお話を──」

「うるさい」


 彼女の短い怒声の後で、私の体がカっと熱くなりました。

 気づけば腹部には刃物が突き刺さっていて、気づくなり今度は体が冷えていきました。倒れる私を見下ろして、彼女は何処かへ立ち去っていく。

 その後姿を見つめながら、私は思ったのです。

 ああ、やっぱり夜道の一人歩きは危険なのだと。

 いずれにせよこれで、この夜道は間もなく、皆様にとってより安全なものになることでしょう。

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夜道の人食い ねこじゃ・じぇねこ @zenyatta031

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