夏~Estate

「立夏」

何気なし雲の形も風の音も春から夏に節気代わりて


「葉桜」

葉桜の並木の影を踏み行けばその幅七歩と気づき笑みたり


「筍」

朝堀のタケノコ幟翻のぼりひるがえる今夜は筍尽くしなるべし

朝掘りのタケノコを売るテント立つ出来の良い子を一つ贖う 


「ゴールデンウィーク」

旅先で喧嘩をしない約束は今年も破れた5月連休


三首連作「五月の薔薇」

日傘さし君は深紅の薔薇が咲く白い階段のぼり来たり

噴水の飛沫煌めく薔薇園に君はモデルのポーズで写れり

先を行く君は突然立ち止まり吾を睨んだ五月のバラ園


四首連作「ローズガーデン」

相模灘見渡す丘のバラ園に長蛇の列有り空飛ぶブランコ

満開のバラの向こうに海ありて沖行く船の影通り過ぐ

薔薇を見る若人知るや知らぬやら錦ヶ浦の故事来歴を

崖下に見ゆる海には一艘の漁する船の波に揺れおり


「薔薇」

日傘さすご婦人方が覗き込む木香薔薇咲くアンティークショップ


五首連作「梅雨」

走り梅雨そぼ降る川沿いひっそりと咲く色薄きあじさいの花

君の住む地方が梅雨に入ったとテレビは告げりトーストを食む

梅雨晴れ間スニーカー並べ干されおり親子四人の仲良し家族

梅雨寒の色を失くした海岸を君は歩めり振り向きもせず

戻り梅雨しとど降る夜の隙間より漏れ来る音を聞きつ寝に就く


「初音」

油蝉の初音を聞けり朝散歩今日にも梅雨明け宣言あるやも


「梅雨明け」

日差し避け忍者のごとく陰伝い駅に向かいぬ梅雨明けの街


「夾竹桃」

梅雨明けの強い日差しを嬉しげに受けて夾竹桃咲きにけり


「立葵」

立葵梅雨明け宣言するように天辺の花今日咲かせたり


「百日紅」

梅雨明けて百日紅の花咲きにけり今年も街の夏を飾れよ

白い花咲かせ続けよ百日紅枝葉は街に木陰作れよ


「椎の花」

雨の宵匂い漂う椎の花校門の奥の闇の内より


「色失せて」

末枯れた己が姿を水鏡色なき紫陽花悲しからずや

雨の街彩り続けた紫陽花の色は失せたり真夏来たりて


「向日葵」

今日もまた空に大きく口開けて夏の灼熱喰らえ向日葵


三首連作「燕を撮る」

捕食する燕の一瞬撮るために先ずストレッチを入念にする

狙うのは空中捕食する瞬間さぁこいツバメ喰らえ羽虫を

仰け反って燕が捕食する瞬間写し撮りたりよろけながらも


「コテージ」

コテージのウッドデッキのハンモック おっかなびっくり乗って寝てみる

コテージのロッキングチェアに腰掛けて原生林の唄に聴き入る


「合宿」

初めての夏合宿の最後の夜 ギターデュオせり君はあいつと


「シュノーケル」

ソラスズメ群れる八重干瀬やびじのシュノーケル

            「あきさみよー」これぞちゅら海


「サングラス」

思いがけず引き出しからサングラス埃を拭いて眼に掛けてみる


三首連作「落蝉」

仰向けに道路に転がる蝉ジィと鳴いて固まる黒ラブラドール

落蝉に鼻近づけたその時にジィと一声猫飛び退る

灼熱の車道に転がる落蝉を拾い運びぬビルの植栽


「ねこまんま」

ねこまんま独り食う夜は妻恋し単身赴任二年目の夏




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