春~Primavera

「春の足音」

      

ひとすじのかそけき風のよぎりたりそは忍び寄る春の足音


「春を待つ」


まっさらな白のスニーカー靴箱の奥から前に並べ春待つ


「春風」


春の風重たいものはスルーしてタンポポ綿毛にそよと吹きかけ


「安曇野」


安曇野のわさび田渡る春の風 水車は囘る雪解けの水


「梅一枝」

  

旧き友携え来る梅一枝うめいっし 患う前は酒にありしも


「芦花公園」 

  

武蔵野の面影残る公園の春の木漏れ日影を踏み行く


「鳥帰る」 

 

鳴き交わし励まし合うかに雲を行く鳥は目指すや遥かシベリア


「ヘラクレス」


春の日が差し込むビルのエントランス弓引く像の裸体にたじろぐ


「春の膳」


豌豆の花飾られし朱塗り膳 精進料理に春匂い立つ


「沈丁花」

 

沈丁花赤い蕾は固いまま匂い立つまで今少しの春


沈丁花ポンと最初の蕾咲くそっと顔寄せその香うかがふ


「春の坂」


一葉が通った伊勢屋質店の蔵残りおり春の坂道


「梅が香」


背伸びしてマスク外して顔寄せて梅の香りを代わる代わりに


「地下鉄」

 

通勤の丸の内線の車窓より神田川の春垣間見えたり


地下鉄に春の景色や聖橋それもつかの間元の現実


「辛夷」


街路樹のもふもふ尻尾気になってスマホに問えば辛夷こぶしの花芽


もふもふのコート纏いし辛夷こぶしの芽 思わずちょんと指で突きぬ


「雛祭り」


久しやな二人逢瀬の雛祭り 男雛持つ笏先の震えり


内裏雛一年ぶりのご対面  女雛檜扇あな恥ずかしや


「野遊び」


芝生から起きない父に群がりて遊んで欲しいとせがむ子供等


「渡り蝶」


尾瀬の空渡りの蝶の小さ影 偏西風に乗りて来たるや


尾瀬ヶ原空の高みに渡り蝶気流捉えて北へ向かうか


「新入生」


チェロ背負う新入生と思われる小柄な女性が上る坂道


「3.11」


早春の光と影の移ろいを眺めている3.11さんてんいちいち


「蝌蚪」


群れ泳ぐ食物連鎖の底の蝌蚪 二匹も残れば上等上等


「山辺の道」


春の香と初夏の薫りが入り交じる風吹き来る山辺の道 


「桜」


指を折り桜見上げてまた指を折るあの女性ひともきっと歌詠み


女学生三十一文字じょがくせうみそひともじを指で折り 歌を詠むらし桜見上げつ


「桜蕊降る」


今旬の映えスポットにドンピシャの桜蕊さくらしべふる路地の稲荷社


「ウクライナ侵攻」


花散らす雨は冷たし、塹壕の兵士達にも春は来たるか


三首連作「春に遊ぶ」


コンビニに寄ってジャスミンティーとパン買って 

                   麗らの春を歩きぬ

満天星どうだんに一斉に花付きたれば野に出でんかな春のさ中へ

朝食の残りの惣菜詰めただけの弁当食べたあの春の日よ


「ありがとう」


 桜散りて華やぎ失せた街並みに春また戻る花水木の花


三首連作「花水木」


公園の若葉茂れる木の間越し白き花の咲ける見えおり

公園の最奥ならむ塀際に白花水木一本しろはなみずきひともとありぬ

微かなる街の灯りの及び来る公園の隅に花水木咲く


「花リレー」


花リレー梅桃櫻花水木躑躅に皐月アンカーの藤


「歩道橋」


渡る人滅多にいない歩道橋を二匹の蝶がほら越えて行くよ 

渡る人見かけることなき歩道橋タンポポのわた渡り越え行く 


「藤」


ゾウさんの滑り台ある公園の藤棚に花園児ら見つけり

園児らが見上げ指さす方見れば 葉の繁れりに藤の花咲く

葛餅を商う店の軒先に垂れる藤房屋号の暖簾

葛餅を売る軒先の藤棚の藤を見上げつ店に入りたり


「春雨」


春雨に濡れる大型重機群明から暗へ色を変え行く

橋梁の大型クレーンを春の雨絡めとるかにしとど降りける


「ユリカモメ」


河口洲の杭それぞれにユリカモメ梃子でも動かぬ面構えして



 










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