第22話 火の神の午前と水の神の午後 前半

初恋の日から5日後。

明日は休みの日。なぜ休みかというと、『ファイアルーデの午前』と『ウォーターカーンの午後』の日が同時にある日だからだ。『ファイアルーデの午前』は、

火の神であるファイアルーデの色、午前中、深い赤に空が染まる日で、その日の午前中、いたるところに出現する、ピンク色の『ファイアルーデの池』に行くと火の神の眷属たちが祭りを開いているのだ。火の神の眷属たちはとても友好的で、その祭りに人々を参加させてくれるのだ。

『ウォーターカーンの午後』には、昼後から水色に染まった月が現れ、夜がとても

長くなる日だ。その午後には水の神の眷属たちが全領地の大きな池を周り、笛やピアノのような『クラヴィア』と呼ばれる楽器を奏でてその夜を過ごす。

国中に流れるその音色を聞きながら、大人たちは夜宴を開き、子供たちは仲間同士でパーティーを開いたりするのだ。

普段は1~2日違いなのだが、極めて珍しいことに今年は同じ日に『ファイアルーデの午前』と『ウォーターカーンの午後』が共存しているのである。

さあ、明日早く起きることが出来るように、少し早く寝るとしよう。


次の日。

私は窓を開けて外を見る。空が深い赤に染まっている。

急いでディールマティーナを呼び、制服に着替える。空の色に似た深い赤のマントを羽織り、外へ出る。既に数人、外へ出ていた。いつも『ファイアルーデの池』は必ず貴族学校には現れているそうで、いつもそれがある方に上級生が向かっていった。

1年生の皆でその方向へ向かう。

「わぁ…………。」

何回も見ているはずの7年生も、初めて見たであろう1年生も、皆、ため息をついて綺麗で限りなく透明に近いピンク色の『ファイアルーデの池』を眺めている。

暫くすると、ぼんやりと火の神の眷属たちの姿が見えてきた。

どの眷属たちも小さなライトを買い、お菓子やアクセサリーなどを買っている。

見ていると、いくつかの眷属たちが手を振ってきた。

すると高学年の子達がまず、お手本を見せるようにその中へ入っていった。

入っていった子達が皆、眷属たちとともにお祭りを楽しんでいる。

それを見て、次々と皆飛び込んでいく。

私も、眼を閉じて池の中へ入った。

「わあ!」

眼を開くと、沢山の丸太小屋やテントのようなものが立ち並んでいた。

眷属たちも学生たちも皆同じ大きさになっていて、なんだか不思議な感じがした。

その中の1人の眷属が私に話しかけてきた。

「やあ、僕は火の神の眷属、雷鳴の神のサンダーディウス。

もしかして、君聖女様候補の子?」

金色のマッシュルームカットの15歳くらいに見える男の子。

「あ、わたくしは1年生、3級上流貴族のマリリーン・アーゲルアーカイク・ユリリーネですわ。

…えぇ、わたくし、実は平民なのですが、先日の宝石取りで聖女候補だったことが分かったのです…」

「そうなの⁉にしては見た目綺麗だし、落ちぶれた貴族の子とかなのかい?」

「いいえ、先祖代々中流平民ということを聞いております…」

「そうなんだ。あ、かしこまらなくていいよ。僕たちもそんな偉いわけでもないし…。そうだ、あのお店行こう?」

「あ、はい!行きましょう!」

お金はいくらか先生たちに両替してもらっている。ここは物価が安いというので、

きっと物をたくさん買えるだろう。

「わぁ、可愛い…」

サンダーディウスが案内したのは金色に光り輝く、光の神が運営するわたあめのようなお菓子のお店だ。

値段を見る。

…え?安い!…

なんと人間(?)界でパンが一つ買えるくらいのお金で、綿あめもどきが5個ほど買える。

綿あめもどきを一つ買い、ちぎって食べてみる。

「わぁ!美味しい…」

ふわふわで甘いのに、光の神様が作っているからか少しぱちぱちとした感じがする。

「でしょ?これ、綿菓子って言うんだ。本当に金色の綿みたいだよね。」

「確かに…。」

…名前そのまま…

綿菓子を食べながら屋台を見回す。

「あ!あそこの屋台行ってみてもいい?」

「うん、どうぞ!」

その屋台には、ガラスや陶器の箱に白い砂のような物が入っていて、

中には小さな町や庭がある。箱庭のようなものだろう。

これも安かったので、割れにくい陶器で作られた、両手に乗るくらいのもっとも小さいサイズの庭を買った。

その屋台を開いている焚火の神によると、箱に手を触れながら理想の植物を思い浮かべると、それが生えたりするそうだ。

その後は火花の神と一緒にいたハリエットと、竈の神といたレイカーンと合流した。

神様同士も仲が良かったようで、6人で歩く。

火花の神、フラワーファイアーは赤のロングヘアの12歳くらいの女の子で

竈の神のハルスファイは赤茶の編み込みをしたセミロングの18歳くらいの女の人だ。

眷属は皆設定された年から加齢しないようで、皆子供だ。

サンダーディウスが「一応誕生日があるんだけどね」と言っていたので、生成されたというより生まれているという表現が正しいのだろう。

その後は今度実家へ戻るときのお土産を買った。

私は母さんには綺麗な色の糸を数種類、父さんには商人の仕事で役立ちそうな最新型の計算機を、デュー兄さんには細工で使いそうな用品を幾つか、

リュートにはもうすぐ採集が始まると思うので籠を買った。

…ここ本当に何でもある…

いつの間にか時間が過ぎ、10時台になっていた。

お昼ご飯を食べようと竈の神が言ったので、3人の神様おすすめのクレープとガレットの中間のような食べ物を買いに行った。

ワキュレとクエリ、牛肉を軽く焼いて薄く切ったローストビーフのようなものが挟まったものと、カリンのジャムとヨーグルトを少しコクを増やしたのようなギーディルテというものをいれたものを買ったのだが、びっくりするほどこちらも美味しかった。

満腹になって次のパーティーの買い物をまた3組に分かれて済ませると、もう12時を過ぎようとしていた。

時を止めて枯れなくなった花を一輪貰った。

「また来年、来てね!」

「ええ!」

段々薄くなっていく眷属たちに手を振り、元の世界に戻った。

「楽しかったですわね!」

「ええ。あら、もうすぐウォーターカーンの午後が始まりますわ。

パーティーの準備を始めなければ!」

今日は私、ハリエット、レイカーン、ナルディウス、ナルディウスの友達の

グランディアウス、ドルデディオと持ち寄りパーティーを開く予定だ。

「ああ、午後も楽しみですわ!」

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