第5話 目覚め
ゆっくりと目を開ける。
「マリリーン、辛かったわね。もう大丈夫よ。」
マリリーンの母親の横には、医者のような服装の人がいる。
「マリリーンさんは、『貴族病』にかかっています。」
医者が話を始めた。
「『貴族病』とは、本来平民が持っていない量の魔力を持っている者が、
大きな感情の起伏で魔力を爆発させることで、治すためには基本的に5級貴族、まれに3級などもありますが…として貴族学校に通い、魔力の放出法を学ばないといけないのです。
下流平民だと払えない額の金がかかりますが、共働きで財力がある中流平民の方であればどうにかなります。ですが、当然4級から1級の貴族、下手すれば5級の貴族にも嫌われ、先生にも十分な教育を受けさせてもらえない場合もあります。もちろんマリリーンさんやご家族のユリリーネさん、ご主人やお兄さんには大きな覚悟が必要になるかと…。」
「そこに通わないと、貴族病を治すことは出来ないんですか…?」
恐る恐るマリリーンの母親が聞く。
「はい。虚弱になるわけでも、死ぬわけでもありませんが、やはり将来に大きな影響を与えることにはなります。」
「母さん、私は貴族学校へ通う。5級貴族でもいいから、頑張って貴族病を治したい。お願いだから、お金を払って貴族学校へ行かせて。」
「...お金は大丈夫。ただ、貴族学校を卒業した後のことが気になって…」
「まあ、考えることはたくさんあると思います。マリリーンさんの誕生日祭典までは、かなり時間があります。ただ、応急措置としてこの腕輪だけはめておいて下さい。では、私はこれで。」
そう言うと、医師は帰って行ってしまった。
残された腕輪をはめる。
「これ、絶対ブカブカだよね…?」
銀の彫刻されたベースにエメラルドのような小さな宝石…と言うよりムード的に魔石というべきか…のデザインの腕輪をはめる。
「え?あれ?あれれ?」
間抜けな声を出すはめになってしまった。
なんと腕輪はごく小さな音を立て、自分の腕にちょうどいい大きさになったのだ。
「…不思議ね。」
母さんもやはりこの魔法を知らないようだ。
「あ、ちょっとスッキリしたかも知れない。」
体の中の魔力が吸われて、かなり楽になった。
「母さん、私何日意識が無かったの?」
「1日半くらいかしら…」
「そんなに!じゃあ父さんとデュー兄には心配かけたね…。」
「まあね。あ!そうそう。デュートの誕生日祭典用の服が出来たのよ!」
デュートは今9歳で、もうすぐ10歳だ。
「さっきから言ってるけれど、『誕生日祭典』って何の事?
「マリリーン、そんな事も知らないの…?誕生日祭典は、10歳を迎えた同じ誕生月の子供が、神殿に行って神様から成長力をもらうのよ。衣装は衣装職人から買ったものじゃなくて、母親たちが作るの…前にも言わなかったかしら…?…で、これを私が作ったのよ!」
母さんが作ったという七分丈のTシャツと、ワイド丈のズボンは、生成りの布で出来ていて、裾と襟に赤色の刺繍がある。
飾りには木ボタンが付いている。
ミシンも何もない世界で、こんなものが作れるなんて大尊敬だ。
「母さん、刺繍上手だね!」
「ありがとう。マリリーンの衣装も来年綺麗で可愛く作ってあげるね。」
「うん!」
不安も心配もあるけれど、母さんとの絆も深まって、いい日だった。
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