深夜のお出かけ

夏木

深夜の……



 満天の星空が見てみたい。

 そう口にしたのは確かに俺だけど。



「今から、星を見に行こうぜ」



 なんて、深夜に自転車に乗って悪友が誘いに来るだなんて思いもしなかった。


 家から抜け出して、自転車で走る。

 公園、空き地、学校。

 昼間は通るけど夜はあまり居ない場所で、星が見えそうな所を行ってみたが、見える星の量は変わらない。

 その事に、俺よりも悪友の方が悔しそうに唸っている。


「もういいよ。帰ろう」

「えー? でもよぉ」


 何故か、ごねるのは悪友の方で。

 俺は、もう良いって、っと強く言って自転車に乗り、軽く走り出す。

 あいつも諦めたようで、待てよ。と小さいながらも声をかけて、追いかけてくる。


 やっぱり、写真やテレビでみるような満天の星は、どこか遠い世界での話なんだ。

 俺自身はそう思うだけで、話は終わったのだが。


 その週末。


「良いとこ見つけたぜ!」


 親指を立てて、ウィンクをしながら奴はそう言った。

 そして俺達はまた、家を抜け出し、やってきたのは住宅街。付け加えるのなら、高い位置にあるから、夜景は綺麗に見える。

 満天の星は諦めて、地上の星で我慢しろって事か?

 内心落胆した。

 だが、ガキである俺達に出来るのは、確かにこの程度かもしれない。


「いいか、見とけよ」


 内心冷めた俺にあいつは、自信満々な笑顔を見せつけた。

 へぇへぇ。と見守る中、あの馬鹿は、突然ブリッジをした。


「見ろ! こうやって見たら満天の星だ!」


 堂々とした宣言に、俺は一瞬、真っ白になってから爆笑した。

 馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、本当に馬鹿だ。


「いいからやってみろって!」


 なんて、あの馬鹿は言うけれど、俺はブリッジなんて出来やしない。

 あーあ、こんな事ならブルーシートでも持ってこれば良かったと思いながら、俺は地面に寝転がり、階段の段差を利用し、首を傾げて上下が逆転した景色を見る。

横から頭良いな、なんて聞こえてくるが、ブリッジなんて発想するぐらいなら、他にも先に考えつけよ、と俺としては返したい。


 上下が逆転した景色は、残念ながら、夜景は夜景だった。


 でも、俺達にはこれぐらいが丁度いいのかもしれない。

 落胆とは違う、どこか満足感に似た思いが浮かぶ。


 体を起こしてホコリを叩く。

 くそ、夜だから汚れがよく分からん。

 たく、こんな事なら先に一言言え、と、軽く蹴る。

 なんだよ。と、アイツは言い返してくる。


「観れただろ! 満天の星!」

「満天の夜景なら見たな」


 なんて、会話をしていると。


「ねぇ、君達?」


 と、声をかけれて、振り向くとそこに居たのは、今は会いたくなかった職業ランキング1位の警察官で。

 ちょっと良いかな? と優しく声をかけてきてくれるが……。

 対応が優しくなるわけもなく、親に連絡が行った。

 夜遊びの理由が、満天の星空を見たかったから。という健全とも言える内容だったからか、両サイドの父親からは、まずは俺達に声をかけろ。と、怒られた。

 でも、それは違うんだと思う。

 そう思いはするが、俺もあいつも反論はせず、ただ、ひたすら説教を聞くのみ。


 俺もアイツも、「非日常」を求めたんだ。

 俺の呟きがたまたま、それの理由に当てはめる事が出来ただけで。

 星空なんかよりも、深夜に出かけるというのが、本当は重要だったのだ。

 もちろん俺も、そして馬鹿なあいつでも、そんな事は言わなかったけど。

 俺達はただ、非日常という冒険をしてみたかっただけなのだ。




 大人になって、あの頃のように夜に出ても、怒られることはなくなった。

 それでも、俺は深夜に外に出る。

 帰宅中に買えば良いのに、こんな夜遅くから、コンビニに買い出しに来ては、細々としたのをわざわざ買っている。


 深夜の人気の無くなった、真夜中独特の空気の中、俺は空を見あげる。

 そこにあるのは星なんてほとんど見えない夜空だ。

 そんな夜空を見た後に、街の灯りを見ては、小さな笑みを浮かべてしまう。


 あの冒険で得た宝が、あの時の思い出だ、なんて、こっぱずかしくて、誰にも言えない。

 もちろんあの馬鹿にも。

 もっともお互いに言わないだけで、あいつも似た様なものだろう。

 スマホを取り出し、飯時に送られて来た写真を見て、最初見た時と同じように小さな笑みが浮かぶ。


 満天の夜景。


 キャンプに行ったあいつから送られて来た写真に、そう思わずには居られなかった。

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深夜のお出かけ 夏木 @blue_b_natuki

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