第4話 そっか、俺が弱すぎるから手加減してるのか? 


 お父様が俺に指南役として連れてきてくれたのは、古びた剣を持った初老の男性だった。

 いかにもなしょぼくれたオッサンという感じで、なんだか頼りない。

 しかも剣も衣服もボロボロだ。

 こんなオッサンに、指南役なんか務まるのか?

 まあいい、エスタは最弱なんだから、誰に教わっても今より弱くなるということはないだろう。

 きっとお父様は、俺がけがをしないように、まずは弱めの指南役をつけてくれたに違いない。


「よろしくお願いいたします。俺に剣を教えてください! 俺はもっと強くなる必要があるんです!」

「おう、お前がエスタか。よろしくな、俺にかかれば一人前の戦士にしてやる。戦士はなにも剣の腕だけがすべてじゃないからな。それよりも、戦士に大事なのは精神こころだ。誰にも負けない、折れない心が剣を強くするんだ」

「はい……!」


 さっそく、俺は素振りを見てもらうことにした。

 ――ビュン!

 俺は素振りをいつものようにして見せる。

 まあ、俺の素振りなんて止まっているようなものだ。

 全然遅くて、こんなんじゃまだまだだって自分でも思う。

 俺には俺の素振りが、止まって見えた。


「ほ、ほう……なかなかやるな……」

「そうでしょうか……? 俺の素振りなんて全然だめですよね……。まだまだこんなんじゃ。こんな素振り、止まって見えますよね。遅すぎですよね……」

「そ、そうだな……まあ、頑張れよ!」


 なんだかはぐらかされた。

 そうか、よほど俺の素振りはゆっくりなんだな……。

 言葉を濁されるほどに、俺は弱いんだ。

 やはり、エスタはいくら鍛えても最弱なのだろうか。

 いや、あきらめるにはまだはやい。

 当たって砕けろだ!


 次は先生と模擬戦をやることになった。


「よろしくお願いいたします!」

「おう、どこからでもかかってこい!」


 俺は遠慮なく斬りかかる!

 エスタは最弱だから、少しでも気を抜くとこっちが怪我するからな……。

 俺の渾身の振りを、先生は受け止める。

 さすがは指南役だ……!

 ――キン!


「っぐ……なかなかやるな……!」


 それから数回剣撃を繰り返す。

 そのうちに、だんだんと先生の動きが見えてくる……。

 あれ……?

 もしかして、この人、弱い……?


 さっきから、こっちはそれなりに本気で撃っているのに、先生のほうは全然だ。

 まるで動きがなっていない。

 というより、止まって見えるほど動きが遅い。

 どういうことだ。

 これじゃあ全然試合にならないぞ……?

 俺のほうも、先生に怪我をさせないようにペースを落とす。


「先生、もっと本気でかかってきてくださいよ! お願いします!」

「お、おう……!」


 そっか、先生も俺が弱すぎるというのを見て、手加減しているのだろうな。

 それにしても、もう少しくらいは本気になってもらわないと困る。

 そうか、俺が本気を引き出せてないのが悪いのか。

 もっと先生に本気になってもらわないと。

 俺はちょっと本気で剣撃を加えてみる。

 ――キンキンキン。

 すると――。


「ぐあ……!?」


 先生の剣がはじかれて、地に落ちる。

 あれぇ……。

 俺が弱すぎて、手加減が難しいのだろうか。

 それにしてもあっさり勝てたな。

 俺にまずは勝たせて、モチベーションをあげようということなのだろうか。


「や、やるな……今日は疲れただろう。続きは明日だ……」

「は、はい……! ありがとうございました!」


 ということで、その日の修行は終わりとなった。

 しかし、翌日からどういうことか先生はこなくなってしまった。

 俺がよほど見込みがなかったのだろうか……。

 やはりエスタはどこまでいっても最弱なのらしい……。

 くそ……なんだか悔しいな。

 だが、この悔しさをばねにして、俺は一人で今日も剣を振り続けるのだった。

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