第3話 ど、どうせ無駄じゃないのか?
あれから、メイドたちとの甘い日々が続いた。
こっちが頼んでもないのに、俺が頑張っているからと、ますますメイドたちが俺に甘くなるのだ。
みんなよほどエスタのことが憐れなんだろうな。
最弱で才能のないエスタが、それでも必死に努力する姿は胸を打つのだろう。
みんな俺のことをこれでもかと甘やかしてくる。
だが、俺は破滅フラグを回避するために、強くならねばならないのだ。
こんなふうに毎日メイドとイチャイチャして、甘やかされている場合ではない。
エスタはもっと強くならないといけない。
そこで、俺は剣術指導をつけてもらおうと考えた。
こうやって自分ひとりで剣を振り続けていても、限界がある。
それに、エスタは最弱で才能もないのだ。
才能のないエスタが強くなろうと思ったら、誰かに教えを乞うたほうがいいだろう。
元々のエスタには、剣術指南役はついていなかったようだ。
エスタは甘やかされているからな。
どうせ才能のないエスタには教えても無駄だろうと、指南役を付けてもらえなかったのだろう。
かわいそうなエスタだ。
最弱のへっぽこ剣士エスタ……まじで同情するぜ。
っていうか、今は俺自身のことだよな。
俺は父に言って、剣術指南役をつけてもらうようにお願いした。
「御父様、このエスタ。もっと強くなりたいです! どうか、剣術指南役をつけてくれませんか!」
もちろんエスタは甘やかされているから、OKだろう。
「も、もちろん……! お前が望むならそうさせてやりたいが……でも、いいのか?」
「なにがです?」
エスタが弱すぎるからって、御父様は心配しているのだろうか。
「ど、どうせ無駄じゃないのか? それに、けがをするおそれもあるだろう……。いったいなんの意味があって……そんなことを……」
おおっと……。
御父様もなかなか辛辣だな。
才能のないエスタがいくら努力しても無駄だと言うのか……。
まあ、甘やかしている可愛い息子に怪我をさせたくないというのもわかるが……。
だが、俺は死なないために、強くならねばならんのだ。
「大丈夫です御父様! 俺はもっともっと強くなりたいんです! それならば、例え無駄でも、なにもしないよりはマシというものです! 俺は少しでも可能性があれば、それにかけたいんです!」
俺は情熱的に訴えた。
それが父にも通じたのか。
「おお……! そうか、そこまで強い思いか……さらに高みを目指すというのだな……。ふふ……さすがは我が息子だ。いいだろう。やれるところまで、やってみるといい!」
「はい! ありがとうございます! 御父様!」
こうして、俺は剣術指南役をつけてもらえることになった。
◆
【side:父】
私にはエスタという可愛い息子がいる。
エスタは天才だった。神童だった。
この歳で、もう並みの剣豪では太刀打ちできないレベルにまで達している。
エスタはこれ以上強くなれないというレベルまで、強くなっていた。
そんなエスタは、普段はのんびりとした暮らしをしていた。
だがある日、私のところにきてこう言ったのだ。
「御父様、このエスタ。もっと強くなりたいです! どうか、剣術指南役をつけてくれませんか!」
はい……?
私はわけがわからなかった。
エスタに剣を教えられるような人間、もはやこの国にはいなかった。
それなのに、さらに強くなりたいからって、剣術指南役をつけてくれとは……。
これ以上強くなってどうするのだ……。
「ど、どうせ無駄じゃないのか? それに、(相手が)けがをするおそれもあるだろう……。いったいなんの意味があって……そんなことを……」
エスタはもう強くなりすぎた。
これ以上努力しても、強くなれるとは思えない。
それに、仮にこれ以上強くなっても、その強さを使うような敵がいないだろう。
エスタがこれ以上剣を極めることは無駄に思えた。
そのくらい、エスタの剣は既に極まっていた。
もしエスタと剣を交えてしまえば、いくら手加減をしていても、相手に怪我をさせてしまうことになりかねない。
国の大切な剣士を、みすみすけがをさせてしまっては、それこそ無駄になる。
だから、エスタの提案はばかばかしく思えた。
もはや武をきわめてしまって、武には興味がないとまで思っていたエスタが、急にどうしたのだろうか。
だが、我が息子は曇りなき目でまっすぐに私を見つめてこう言った。
「大丈夫です御父様! 俺はもっともっと強くなりたいんです! それならば、例え無駄でも、なにもしないよりはマシというものです! 俺は少しでも可能性があれば、それにかけたいんです!」
なるほど……武を極めたその先に……さらに高みがあると言うのだな……。
それを超えようというのか……!
我が息子ながら、この歳で大したものだ。
それほどまでに堅い決意で、さらに強くなろうというのなら、答えてやらなくては。
「おお……! そうか、そこまで強い思いか……さらに高みを目指すというのだな……。ふふ……さすがは我が息子だ。いいだろう。やれるところまで、やってみるといい!」
私はエスタに、国で最高の剣士を指南役につけてやることにした。
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