第2話 なんかみんな俺に甘いな……?


 エスタの家はかなり羽振りのいい貴族一家だ。

 しかも、どうやらエスタはかなり溺愛されている。

 まあ、最弱なエスタはか弱くて可愛がりがいがあるってことなのかな。

 おそらくエスタは子供のころから最弱だったのだろう。

 うぅ……かわいそうなエスタ。


 見た目もひょろそうで、エスタはいかにもな貧弱そのものだ。

 俺自身、鏡で見るとどこかエスタを守ってやりたくなる気分だった。

 エスタはそのくらいか弱くて、可愛げがあった。

 そんなエスタは、メイドなどの使用人からも溺愛されていた。

 最弱であるエスタを憐れにおもって、みんなこんなに溺愛してくるんだろうか?


 とにかく、両親も使用人も、エスタに対してめっぽう甘かった。

 ねだればなんでも買ってもらえたし、とにかくエスタは甘やかされていた。

 そりゃあ、まあ、こんなふうに育てられたら、強くもならないか。

 おそらくゲームの世界のエスタは、この恵まれた環境にあぐらをかいてろくに努力もしなかったのだろう。

 だけど、ゲームのその後を知っている俺はそうはならない。

 俺はエスタの身体を鍛えまくって、最弱から最強になってやろうと思う。


 メイドのフィアンヌが、俺にケーキを焼いてくれた。

 フィアンヌはかわいらしい、年頃の娘だ。

 俺のことをとてもかわいがってくれている。

 俺が子供だからって、フィアンヌは俺に、その豊満な胸を容赦なく押し付けてくる。

 オイオイ……こっちは中身オッサンだぞ……。

 幸い、エスタの身体はまだまだ子供なようで、下半身はそこまで反応しなかったからいいものの……。


「エスタおぼっちゃま。今日もかわいらしくって、とっても素敵ですよ。エスタおぼっちゃまは本当にすばらしいお方ですね。はい、あーんしてください♡」


 フィアンヌはそう言って、俺にケーキを食べさせてくれる。

 なんかちょっと、さすがに甘やかしすぎじゃないのか……?

 大体うちの使用人は、みんなこんな感じだった。

 はぁ……やっぱり、俺が最弱すぎるから、みんな同情してるんだな。

 同情して、か弱いエスタおぼっちゃまに優しくしてくれているんだ。

 なんの才能もない、かわいそうなエスタ。そうみられているのだろう。


 くそ……なんかちょっと悔やしいやら悲しいやらだな。

 よし、こうなったら、みんなを見返すくらい強くなってやる!

 俺はこれから毎日努力を重ねて、最弱のエスタから、最強のエスタになってやるんだ!

 その日から俺は努力を始めた。


 俺が剣を必死に素振りしていると、フィアンヌが驚いた顔で俺を見た。

 まあ、おそらくこれまでのエスタは、こんなふうに努力をすることもなかったのだろうな。

 そんなエスタが、急に剣を振り出したんで、驚いているのだろう。


「お、おぼっちゃま!? まだ努力をされるおつもりですか……!? 素、素晴らしいです……! 私、感嘆いたしました……」

「まだまだ、もっと俺は努力をしなくちゃなんだ!」


 だって、俺は最弱なのだから――。





 しかし、最弱だと思っているのは彼だけである。

 実際のエスタは、周りから神童と呼ばれる子供時代を過ごしていた。

 なので、周りがエスタに甘いのは、単にエスタが優秀だからなのであった。

 だが、そんなことは【神夜宗一】には知る由もない。





【side:フィアンヌ】



 私の名前はフィアンヌ・ボルセフォンヌ。

 エスタおぼっちゃまにお仕えしている、メイドです。

 このエスタおぼっちゃま、なんととても素晴らしい人物なのです。

 まさに、彼は天才といっても過言ではありません。

 この歳にして、剣の腕も、勉学も、本当に常人離れした才覚を表しています。


 それに、エスタおぼっちゃまの魅力はなんといってもそのギャップです。

 こんなに完璧なエスタさまなのに、見た目はまだまだか弱い子供なのです。

 エスタさまは年のわりに背も低く、まるで女の子のようなかわいらしい見た目をされています。

 なので、使用人たちはみなメロメロなのです。

 ご両親が溺愛されるのも、納得です。

 

「エスタおぼっちゃま。今日もかわいらしくって、とっても素敵ですよ。エスタおぼっちゃまは本当にすばらしいお方ですね。はい、あーんしてください♡」


 私も、エスタおぼっちゃまのことは弟のようにかわいくて、ついつい甘やかしてしまいます。

 そんなおぼっちゃまは、なんと急に、剣の素振りを一生懸命にやり始めました。

 私は、思わず驚いてしまいます。

 だって、エスタおぼっちゃまにとってはもう、剣の素振りなど、基礎中の基礎。

 さんざん剣の素振りなどはやりつくしてきています。

 それなのに、まだそんな基礎練習からやり直すだなんて……。

 

 まさに、エスタおぼっちゃまは努力の天才です。

 ここまでお強いのに、その力に驕ることなく、さらにそれを高めようとするなんて……。

 しかも、まるでエスタおぼっちゃまは今日初めて剣を握ったかのような、そんな熱量で、素振りに挑んでいます。

 普通この歳くらいの子供であれば、もはや基礎練習の素振りなど、飽き飽きしてやめているでしょうに……。

 しかし、エスタおぼっちゃまは変わらず熱心に、真剣に、素振りに取り組もうとしているのです。

 私は、こんな素晴らしい人間はみたことがありません。

 感動すら覚えてしまいました。


「お、おぼっちゃま!? まだ努力をされるおつもりですか……!? 素、素晴らしいです……! 私、感嘆いたしました……」


 この歳にして最強であるおぼっちゃまは、さらに努力を続けようというのです。

 私の言葉に対して、おぼっちゃまはさらに予想外の返答をされました。


「まだまだ、もっと俺は努力をしなくちゃなんだ!」


 え……。

 まだまだだというのですか……!?

 さらに高みを目指そうというのですか……!?

 私には、このお方がいったいどこまでいってしまうのか、想像もつきません。

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