第12話 ネットニュース

朝。


目を覚ますと、腕の中に無防備な寝顔を晒した佳奈がいた。

服は昨日の内に脱ぎ捨ててしまったので、互いに裸である。


なんというか、やってしまった感がすごい。気分が盛り上がった結果、避妊とか何も考えずにしてしまった。


……一応、収入(それも結構な)が入る予定があるので、子供ができたとしても育てるだけの経済力は多分あるが。


「……おはよ、愛」

「おはよ」


いつの間にか佳奈も起きていたようだ。


「大丈夫。子供ができたらちゃんと産んであげるよ」


俺の思考を読んだような佳奈のセリフ。結構愛が重い。


「……当分は避妊しような」

「ええ……」


なぜか不満そうな佳奈。


「……まさかとは思うけど、昨日危険日だったりしないよね?」


我ながら最低なセリフである。


「ふふ、どうでしょう?」

「……おい」

「大丈夫。生理の直後だし、大丈夫だよ……多分」


なんだか不安なセリフだが……まあたとえ妊娠していたとしても2人で育て上げるだけの力はある。

俺はどうにかなると楽観的な思考で行くことにした。


「それで、今何時?」

「んー……」


俺は傍に置いていたスマホを取ってポチッとつける。


「8:30だな。会議は10時開始だから……もう朝食を食べに行ったほうがいいな」

「ん。じゃあ、行こっか。その前に……ん」


佳奈は目を閉じてクイっと顎を持ち上げる。

俺は求められていることを察して、佳奈の唇に己がそれを重ねた。


–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––



「それでは、昨日の続きから始めましょうか。昨日は平行線のまま終わったので、少しは生産性のある議論をしていただきたいですね」


と、ぐーてんダーク社長。

ニヤニヤと意地悪い笑みが顔に張り付いていた。

近藤社長はそれに対して冷静に応じる。


「そうですね。では、我々からの要求をまとめさせていただきます。

1、ファンが違法行為をしないよう呼びかけ

2、ファンにツイッター上で誹謗中傷をしないよう呼びかけ

3、阿僧祇那由多のVtuberに対する暴言ツイートの削除

4、阿僧祇那由多の芸能人のツイッターの使用制限

5、当該ツイートの謝罪

以上です」


昨日はなんか他にも色々と議論していた気がするが、論点を絞ったようだ。


「ふむ……どれも受け入れ難いものですね」


最初のやつくらいはやっても良さそうだが。


「では、我々の方から声明を出させていただきます。これを要求しましたが、拒否されたと」

「それは信義則に反する!」


今更、信義則も何もないと思うんだが……

ともかく、Vtuber事務所側は半ば脅迫のような手に打って出た。


「では、せめて最初の二つくらいはしていただきたい。それも、各芸能人からという形で」

「…………」


ぐーてんダーク側は答えなかった。


「ふむ。もしや、ここで譲歩すれば芸能事務所のコミュニティから弾き出されると思っているのかね?」


と、ここでレイラ・ファントムが口を挟んだ。


「な!」

「そんなわけないだろう!」

「ふざけるな!」


……どうやら当たりだったらしい。

呆れるほど分かりやすかった。


「……なるほど。この状況は仕事を奪われることに危機感を覚える芸能事務所側にとって好ましい、というわけか……ふざけるな!」


レイラ・ファントムが声を荒げる。


「他者を虐げて自身の優位性を保とうなど……それでVtuberを辞めた人だっている!心に一生の傷を残した人もいる!」

「……だから、どうしたというのだね?それは我々の業界ではよくあることだ」

「Vtuber業界を芸能界と一緒にしないでいただきたい」


レイラ・ファントムがピシャリといった。

とてもかっこいい。

が……交渉の目も潰えてしまった気がする。


と、緊迫した空気をぶち壊すように、ばあんと会議室のドアが開く。


「社長!」


こちらには聞かせられないことなのか、コソコソと何かを耳元で話す。


「なんだと?わ、我々はこれで失礼する!」


社長は大慌てでそういうと、バタバタと慌ただしく出ていった。

俺たちはぽかーんと見送るしかない。


……もしかして。


俺はスマホをつけてネットのニュースを見る。



「あの女優も!?⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎が所属する事務所も!」


という題名の記事が飛び込んでくる。


クリックすると、凄まじい数のスキャンダルが出てきた。各スキャンダルが別のリンクにつながっている。


そして、どうやら情報源は掲示板に突如上がったサイトらしい。そこにはこんな犯行声明が。


「宣戦布告は受け取った。これが我々の回答だ」


…………。

俺はスマホをそっとしまい、見なかったことにした。

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