第10話 会議
一週間後。
俺たちは、とあるホテルの会議室まで来ていた。
なんでも、阿僧祇那由多と、その事務所の人たちとの話し合いの場が持たれるらしい。
俺は個人勢の代表的な立場で呼ばれたようだ。
会議室に入ると、近藤さん以下レインボーの重役と、見たことはないがおそらくマスターライブの重役、そして阿僧祇那由多のプロダクション「ぐーてんダークプロダクション」の重役がにらみあっていた。
始まる前から早速険悪な雰囲気である。
ぽっかりと一箇所、ぐーてんダーク側の席が空いているのは……阿僧祇那由多の席だからか?
「ああ、来たか。メビウスに隣に座ってくれ」
近藤さんは俺がきたことに気づいてそう声をかけてきた。
俺は椅子にちょこんと座っているメビウスを発見して、その横に腰を下ろした。
「おはよう」
「おはようございます。会議はもうすぐ……阿僧祇那由多さんが来次第始まるようです」
「そうか」
俺は黙って緊迫した空気に耐えていると、ぎぃいっと扉が開いて、レイラ・ファントムと阿僧祇那由多が入ってきた。
何があったのか、二人ともものすごい不機嫌な顔をしている。
レイラは事務所の重鎮の隣に、阿僧祇はさっき言った空いている席に座り、会議のゴングがなった。
「さて、それでは人が揃ったので、現状をどうするかについての会議を始めましょうか」
「おや?私はてっきり、謝罪をするために呼び寄せたものと思っていたのですがね」
マスターピースの進行役のセリフに、ぐーてんダークの社長がそう言った。
「あなたたちのファンが、私の事務所所属の芸能人……いや、私の事務所だけではない。他の事務所まで飛び火しているそうではないですか」
いけしゃあしゃあとよくもそんなセリフを宣えるものだ。
「話は変わりますが、阿僧祇那由多さんのツイートに感化されたファンによって放火事件が起こりましてね。先日も、ツイッター上でいわゆるところのレスポンスバトルを繰り広げていらっしゃったようですし……阿僧祇さんのツイッターの使用に関して、何らかの措置をとることを要求いたします」
超長ったらしいが、要は阿僧祇のツイッターをなんとかしろ、ということだ。
「ツイッターはいわば発信の場であり、言論の自由が保証されているはずだ」
「しかし……」
なんだか雲行きが怪しい……というより、全くをもってぐーてんダーク側が誤りを認めようとしない。
「そもそも、我々芸能界側に断りもなく参入してきた事務所に、そんなことを言われる筋合いはない」
……あー……つまり、それが本音というわけか。独占状態の芸能界に、新たな事務所の存在を認めないということだ。
「……あなたは、ツイッター上で死ねとまで言ったそうですね?あまりにも言葉が過ぎるとは思いませんか?」
と、近藤さん。
それは悪手なように思えるが……
「別に。死ねと言ったから死ぬやつなんていないでしょ?」
「既にVtuberをやめた人は何人もいますが」
「知ったことじゃないし。そいつらの心が弱かっただけでしょ?」
うーん。たしかに、大人数の前に出る職業である以上ある程度心が強いことが前提なのかもしれないが……それでも、死ねというのは果たしていいのか?
その後もそんなふうに、一向に自分の非をぐーてんダークプロダクション側は認めようとしなかった。
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