第6話 ナンバーワン

「あら、私はついでですか?」


と、不満そうなルーナ。メビウスは華麗に無視して、『月宮ルーナ』と検索する。すると、こちらも『月宮ルーナのことが3分でわかる動画』が出てきた。


どのVtuberもだいたい、こういう動画は作ってもらってるようだ。


ルーナの挨拶は、『月の世界よりこんルナ〜。月宮ルーナですわ』だった。


「ルーナの挨拶はこんルナ〜なんだな」


確か、自己紹介動画では普通にこんにちはだった気がするが……どうやら、変えたようだ。


「ええ。少しありきたりですが」


ルーナは、清楚系なお嬢様的なキャラクターがウリのようだ。


もう一つの特徴は、配信から滲み出る、日本を代表する財閥令嬢という出自による教養の高さ。その極め付けは……


「何、この英語配信!?」


配信の全編を英語で喋り通している配信があった。しかも、ネイティブかと見紛うほどにぺっらぺらだ。


「私は……その、幼少期から外国語を習っておりまして。一応、6か国語は日常レベルなら話せるのです」


英才教育というやつか。

市場の規模だけで見れば、外国の方が遥かに大きい。そもそもの人口が違うからだ。

そこに直接アプローチできるのは、かなり強力な武器だ。


「佳奈……俺も英語配信練習したほうがいいかな?」

「そうだね。確かに、市場規模で考えるのならば、やるに越したことはないと思うよ」


佳奈も俺と同じことを考えていたようだ。


「ただ、海外にもアプローチしてこの数字なんですのよ……」


登録者は、48000人ほど。俺と大体同じくらいだ。


「継続してやっていれば、数字の方がついてくるんじゃないか?」

「そうですわね……」


しかし、ルーナの表情は重い。そのまま、元の席へと戻って行った。

もしかしたら、ある程度数字を出すことがVtuberを続ける条件なのかもしれない。まあ、俺は同じ事務所にいるわけでもないので、あれこれ口を出すわけにはいかない。ここは黙って……


「何か条件でもあるの?Vtuberを続ける」


と、佳奈がぶっ込んだ。


「ええ。一年で登録者100万人……それが、続けていくための条件ですわ」


おっふ。レインボー登録者序列2位のメビウスで86万人。一位は……


「メビウス、登録者一位ってどんな人なんだ?」

「私だよ」

「わっ」


俺はまたしても急に背後から話しかけられて驚いた。

首だけ振り返ると、大胆不敵な笑みを浮かべた、かっこいい感じの女性が立っていた。年齢は、大体30……いや、20歳後半だろう。


「あなたのハートを頂戴します……レインボー現ナンバーワン、レイラ・ファントムとは私のことだよ」

「メビウス?」

「本当ですよ。登録者1300000人……現状、不動のナンバーワンです。……いつか私が超えますが」


メビウスがメラメラと闘志を燃やしていた。


「あら、その前に私の愛が超えるわよ」


と、参戦する佳奈。私の愛……なんか、響きがいい。


「ご一緒してもよろしいかな?ルーナ嬢」


少々わざとらしい仕草とともに、ぺこりと一礼。ルーナは気圧されながらも、「え、ええ」とうなずいた。


「それで、なかなか数字が伸びないことに悩んでいるんだね?ルーナ嬢」

「ええ……」

「ふむ。私がみた感じ、配信頻度をあげればすぐにでも数字は上がるとは思うけどね」

「やはり、そうですか……」

「忘れがちだけど、チャンネル登録っていうのはわたしたちの活動を追いかけるために使うものだからね。だから、たとえ私であっても活動頻度が下がると登録者は減っていってしまうものなんだ」

「…………」


そうはいっても、おそらくお嬢様たる彼女にとっては難しいのだろう。ルーナは顔を曇らせたままだ。


「だから、私からのアドバイスは……なんでもいいから、Tubeにコンテンツをアップし続けることだ。1日1分の動画でもいい。とにかく、上げ続けることが大切だよ」

「なるほど!」


ぱあっとルーナの顔が輝いた。

すごい。瞬く間に解決策を編み出してしまった。これがナンバーワン、なのか。


こころなしか、メビウスが敗北感を覚えている気がする。


……この後、ショート動画が若者に大流行するのだが……それは別の話だ。

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