第5話 妹

「ところで、二人はどんな配信をしてるんだ?」


俺はいい機会だと思ってそんな話をふってみる。


「……見たことないの?お姉ちゃん」


と、なぜか『お姉ちゃん』呼びのメビウス。


「まあな……できるだけTubeを含むSNSには近づかないように言われてるんだ」

「なるほど……過保護ですのね」


ルーナの視線が佳奈の方へ向く。


「愛には精神を病んで欲しくないからね。ただえさえ配信は大変だし」

「確かに、SNSはいろいろありますからね……」


遠い目になるルーナ。おそらく四宮家の全面的なバックアップの下で活動をしているのだと思うが、それでも色々とあるようだ。


「そういうことなら、妹がどんな配信をしているか、教えてあげますよ」


ついに妹を名乗り出したメビウスは、そばに置いてあるカバンからタブレットを取り出す。やはり事務所の登録者序列二位なだけあって稼いでいるのか、しっかりと最新機種だ。


「ふう、支えてくれてありがとうございます。では、私の配信の切り抜きを紹介しましょう」


メビウスはそういうと、ぽちぽちとタブレットを操作して一つの動画を再生した。タイトルは……なになに?「インフィニット・メビウスのことが3分でわかる動画」視聴回数1,079,983……すごい数字だ。ちなみに作ったのは公式ではない、一般の人だ。


「私の配信開始から今までがざっくりと語られてますよ」


言葉通り、動画の最初は初配信である。ぐるぐるぐると何かが渦巻くようなアニメーションののち、画面の中央にメビウスのアバターが出現した。

あちこちに∞のマークがあしらわれた、ミステリアスな女の子のアバターだ。


『無限へようこそ。こんメビ、インフィニット・メビウスです』


一旦動画をストップ。


「……なんだ?『こんメビ』って」

「こんばんはとメビウスをもじった感じですね。……こんな感じの挨拶はVtuberのトレンドですよ?愛さんはやってないんですか?」


そういうと、メビウスは新しいウインドウを出して『神乃愛』と検索する。すると、きちんとこちらも『神乃愛のことが3分でわかる動画』という動画がでてきた。

気になる視聴回数は…………379,983!?

……そんなにいってたのか。


メビウスはぽちっと再生ボタンを押す。


画面の中の天使のようなアバター(つまり、俺が使っているもの)が、『地上のみなさんに、永遠の愛を!天より舞い降りた愛の天使、神乃愛です!』と言って、両手でハートマークを作る。

いつもの挨拶だ。


「かわいいですわね」


と、いつのまにか俺の後ろにきていたルーナ。


「わっ」「ひゃん!」


俺がおもわずビクッとすると、膝の上に乗っていたメビウスが揺すられて悲鳴を上げた。落ちないように全力でしがみついてくるメビウスを抱え直す。


「き、気をつけてください……」

「すまん。……俺も、こんてんし〜とか付け加えたほうがいいか?」

「別にいいんじゃない?今のあいさつでもう浸透しちゃってるし、無理に付け加えても世界観が壊れるよ」


と、佳奈。


「そうか。じゃあ、さっきのやつの続きを……」


しかしメビウスは、俺の動画の続きを再生した。

結構前のLoLのペンタキルや、その少し後、俺がソードアートオンラインにどハマりして厨二病を発症している動画(特に関係ないFPSでスターバーストストリーム!とか叫んでる)、雑談の見所などがわかりやすくまとめられていた。


「すごいな……」

「ファンの有志の方が会議まで開いて作ったらしいわよ。噂によると、テレビ局にお勤めの方も参加したのだとか」


どうやらすでに佳奈はチェック済みだったようだ。

っていうか、動画のために会議……すごい熱量だ。


「すごいですわね」

「それで、私の方はっと……」


メビウスの方の動画が再生される。終始ミステリアスな空気を保ったまま終わった初配信、そしてこどもっぽい一面とのギャップが示された二回目以降の配信がまとめられている。

どうやら、その二面性が受けたらしい。


「っていうか、配信での二人称は『我』なんだな……口調もなぜか長老って感じだし」

「キャラ付けというやつです。いちおう、メビウスは無限の淵から来た無限の時を生きる魔女っていう設定なので」

「……無限の淵?淵がないから無限なんじゃ……いてっ」


余計なことを言った俺のすねにメビウスがかかと落とし。そこそこ痛いのでやめて欲しい。


「ついでだし、ルーナのも見てみよっか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る