第4話 Why

いそいそと示された席に座ると、なぜか膝の上にインフィニット・メビウスが乗ってきた。


「えーっと、どうしたんだ?インフィニット・メビウスさん」

「私と同じ匂いがします」

「…………?」


訳のわからないインフィニット・メビウスの回答。


「それから、メビウスでいいですよ」

「でしたら、わたくしもルーナでいいですよ」

「わかったよ、メビウス、ルーナ」


……なんか、アニメの世界に紛れ込んだような呼称である。特に、メビウスの方は悪役みたいだ。


「……えっと、それでメビウス?」

「実は私、ずっとお姉ちゃんが欲しかったんです」

「だったら佳奈の膝に乗ればいいと思うぞ」

「それと同時に、お兄ちゃんも欲しかったんです」


女装している俺をお兄ちゃん兼お姉ちゃんにしようという魂胆らしい。たしかに、一石二鳥……なのか?


「愛さんと佳奈さんは、別に恋人というわけではないんですよね?」

「まあ」

「それとも、他に恋人がいたりするんですか?」

「いや、いないけど」

「それなら、別にいいではありませんか」


そう……なのか?

まあ、いいか。年下(多分)の女の子に甘えられるのは悪い気分ではない。


「それから、割と不安定で落ちそうなので支えて欲しいです」

「あ、そう?」


俺はメビウスのお腹に手を回して支えてやる。


「うん、いい感じですね」

「……えっと、さっきの私と同じ匂いがします……っていうのは?」

「愛さんは、どうしてVtuberになられたのでしょう?」


俺の質問へ質問で返すメビウス。

––––ふっ。これは語るしかあるまい。


「男はみな、心のうちに美少女になりたいという願望を秘めているんだよ。別に美少女になって何かしたいわけではなく、チヤホヤされたいわけでもなければ、かっこいい彼氏をつくりたいわけではない。ただ、純粋にかわいい女の子になりたいんだ。それを話したら、佳奈にVtuberを勧めてもらったんだ」


メビウスはふんふんとうなずく。


「つまり、私と目的が同じだった……ということですよ」

「メビウスも、可愛い女の子になりたかったのか?」

「ええ」

「別に、見た目も悪くないと思うけど」


俺はメビウスを頭上から眺める。まあ、たしかに体格はおこちゃまといった感じだが……それでも、小さい女の子特有の可愛さ(こういうとなんか犯罪っぽいが。小さいというのはあくまで身長の話だ)はかなりあると思うが。


「そうですか?ありがとうございます」

「んん!二人だけではなく、わたくしとも話して欲しいですわ。コラボ相手はこのわたしなのですから」

「ああ、ごめん」


俺は顔を完全に置いてけぼりにしてしまっていたルーナのほうに向ける。


「それで、ルーナはどうしてVtuberになろうと思ったんだ?」


せっかくだし、同じ話題をルーナにも振ってみる。


「その……ですね、昔、我が四宮グループが運営する会場でやっているアイドルのライブに一目惚れしまして。それから、ずっとアイドルになりたかったんです」


のっけからナチュラルに生まれの違いを叩きつけてきた。たぶん無自覚なんだろうな……


「それで、14歳の誕生日にアイドルになりたいとお願いしたのですが……セキュリュティ上無理だと言われてしまいまして」


理由がすごい。アイドルになれない理由がセキュリュティ……なんという理由だ。


「それで、自宅にいながらできるVtuberになった訳です」

「親のコネを使ってね」


と、メビウスがちくり。


「あら、そんなことはしていませんよ?知り合いを介して、正当なオーディションを受けました」


それは本当に正当だったのか?世の中には忖度というものが……いや、詳しい追及はやめておこう。

それよりも、どうやらメビウスとルーナは少し仲が悪いようだ。俺はとりあえずつんつんとほっぺたをつついてメビウスをお仕置きしておく。


「ともかく、そんなわけですわ」

「なるほどね……」

「佳奈さんはVtuberになろうとは思わないのですか?」


全員の視線が佳奈へと向く。


「うーん……別にいいかな?愛と仲良くやってみるのも面白そうだけど、どちらかといえば裏方の方が好みなのよね」


と、佳奈。まあ、たしかにSNSを使って情報発信したり、配信のモデレーターをしてくれていたりと、結構楽しそうに裏方をこなしている。


「そうなんですの……」


ルーナは少し残念そうだった。


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