第3話 バレた
案内されたのは、別の控室のような部屋だった。
そこには、一人のお嬢様然とした女の子と、その後ろに付き従っているまるで執事のようなダンディーな初老の男性がいた。まるで、映画に出てくる執事とお嬢様の様だ。
「こんにちは、月宮ルーナと申します。よろしくお願いしますわ」
そういって月宮ルーナの演者さん(以下、めんどくさいので月宮さん)は美しいカーテシーを決めた。リアルでやっている人を初めて見た。
っていうか……でかい。月宮ルーナのアバターに引けをとらない大きさを持っている。多分、佳奈の二倍くら……はっ
俺の不埒な考えを察したように、佳奈が横から貫通属性の視線を照射してきた。
それを誤魔化す様に、佳奈の後ろにかくれて、ぐいぐいと背中を押す。月宮さんにはまだ俺が男だということがバレていない。つまり、先ほどの演技続行ということだ。
「んんっ!えーっと、私は如月佳奈。神乃愛の演者……つまり、この子の付き添いです」
「まあ、あなたが愛さん!?よろしくお願いいたしますわ」
そういうと、ずいっと顔を近づけてくる。同性だと思っているのか、距離が近い。俺はこくこくとうなずいて、ついっと佳奈の背中へと引っ込む。
「あら、怖がらせてしまいましたか……」
「ちょっと引っ込み思案なだけですよ」
……と、横からインフィニット・メビウスさんが囁き声で話しかけてきた。
「……その演技するんですか?」
「まあ。嘘つけなそうな性格じゃない?」
「大丈夫だと思いますけどね……っていうか、執事さんにはバレていると思いますよ」
「まじで?」
俺はそーっと佳奈の背中から月宮さんと執事さんを窺う。すると、執事さんとバッチリ目があって、にこやかにこくりと頷かれた。
「た、確かに……」
これは確実にバレている。この場でわかっていないのは、月宮さんだけっぽい。
「インフィニットさん?何をこそこそ話してらっしゃるのですか?」
「いや、月宮さんもいい人だよ……ってね」
「そうですか……それで、コラボは何をするか……というのは決まっているんですか?」
「はい、今のところ……雑談配信を予定していますが」
「雑談……大丈夫なんですか?」
俺は左手でまるをつくり、ひょこりと背中から出して大丈夫だよ!とアピールする。しかし、どうやら月宮さんは納得しなかったようだった。
「雑談配信のまえに、少しお話したいですわ」
「うーん、配信を介さないとこんな感じだからね……」
そんな主張をする月宮さんに、佳奈は俺を庇う。
「……僭越ながらお嬢様。何か気づくことはありませんか?」
と、これまでずっと話の推移を見守っていた執事さんが言い出した。
「……気付いたこと?もしかして、愛さんが男性である、ということですか?」
「え!?」
バレてたのか!?指摘されないし、あの距離感だし、隠し通せているものだと思っていたのだが……
「さすがです、お嬢様」
「ふふふ、四宮グループを統括する四宮家の娘として当然ですわ!」
月宮さんがそう言ってドヤ顔になった。……さらっとものすごい身分が明らかになったが、気にしないでおこう。
「よくわかったな……なんでわかった?」
「そのスカーフ……おそらく、喉仏を隠す意味でつけていらっしゃるのでしょうけど、微妙にのどぼとけが浮き出ていますわ」
「……そんなところから」
俺はスカーフを一度つけ治す。
「差し出がましいですが」
と、月宮さんが近寄ってきて、スカーフを直してくれる。ち、近い。
「むー……」
と、なぜか佳奈がほっぺたを膨らませる。
「一応、視聴者には絶対に秘密だから、そこのところよろしくな?」
「ええ、もちろんですわ……それで、お話しするのは構いませんか?」
「まあ。『神乃愛』としてでなければ」
さすがに、アバターがないのであのキャラで話すのは難しい。
「十分ですわ。そこにおすわりになってくださいまし。インフィニットさんも、もしどうしてもお話に参加したければ」
「どうしてもしたいわ。よろしくね」
「では、私がお茶を」
そして、突発的な女子会が開かれることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます