第2話 ばれた!?

「えーっと、違いますよ?」


とりあえず如月が惚ける。しかし、そんなごまかしはインフィニット・メビウスには通じなかった。


「嘘ですね。そもそも、体格が女の子のそれじゃないですよ」


俺は特になで肩というわけでもなく、やや線が細いものの男子としては普通の体格をしている。それを見抜いた……というわけか。


「嘘だというのでしたら、声を出して見てください」

「……えーっと」


如月がちらりとこちらを見る。あれは……助けを求める目だ。

いや、助けてほしいのはこっちなんですけど……


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


インフィニット・メビウスさんは俺たちのごまかしを見逃さない様に。佳奈は助けがくるのを願って。俺はボロを出さない様に。鈴木さんはいきなり場が最悪に近い空気になっておろおろしながら。


四者四様の沈黙が流れる。


「……仕方ない、か」


俺は結果、あきらめることにした。


「確かに俺の性別は男だ」

「……へー、やっぱりね」

「え!?」


インフィニット・メビウスは予想通りの結果に納得しているが、鈴木さんはいきなり男声を出した俺にめちゃくちゃ驚いている。


「それで、そっちの美女はお姉ちゃんか何かですか?」

「え?いや、同年代の友人だけど。ちょっとした縁で、俺のマネージャーみたいなこともしてもらってる」

「ふーん。ま、よろしくおねがいしますね。今度コラボしますか?」

「いいのか!?」


てっきり、俺が男であることを隠していたことに怒っているのだと思ったが……そんなことはなかったようだ。


「ちょっと、それはさすがに……事務所を通してくださいよ?」


と、鈴木さんから待ったがかかった。


「わかってますよ。愛さん、登録者は何人くらいです?」

「今現在、47825人よ」

「じゃあ、まだコラボは無理ですね……事務所の規定上、あまりにも登録者の乖離がある場合は外部コラボはできないので」


多分、相手側の一方的な売名のためのコラボを禁止するための条項なのだろう。

ブランドイメージの低下を防ぐため……という理由もありそうだ。


「乖離って……どれくらい?」

「桁が違うと無理ですかね?」

「君の登録者は?」

「87万人です。せめて50万人には行ってくれないと、外部コラボはできませんね」


50万……今は、かなり遠い数字だ。


「でもでも、レインボーに入れば自社コラボになりますし、コラボできますよ。どうです?」

「いや、どうですと言われても……」


俺はちらりと鈴木さんの方を見る。鈴木さんはぐっと親指を立ててきた。

……それはどういうサインだ?


「大丈夫みたいですよ。そもそも、登録者5万人を抱えていて、さらにまだまだ伸びる余地もありますからね……十分、事務所に入るだけの実力はあると思います。なんなら、私の後押しもありますからね。事務所二位の権力を舐めてはいけません」

「うーん、でもなぁ……ずっと佳奈と二人でやってきたわけだし」

「……佳奈?下の名前で呼ぶんですね」

「……?まあ」


あれ?そういえば、俺ってなんで佳奈のことを下の名前で呼んでるんだっけ?


「んんっ!私のことなら気にしなくても大丈夫だよ」

「そうですね。もし佳奈さんのことを気にされるのでしたら、我が社への高校卒業後、もしくは大学卒業後の就職をお約束する……ということを事務所所属の条件に付け加えてもいいですよ」

「そ、そこまでですか?」

「ええ。それに、佳奈さんは人材としても優秀そうでしたので」


つまり、俺が頷けばここで佳奈の内定が決定するということだ。佳奈がレインボーに入社した場合、レインボーの業務も行いつつ、佳奈と俺のコンビを保つ……という形になるのだろう。


「…………いずれにしても、まずはコラボしてから……でいいですか?」


迷った挙句、俺は結論を先送りにすることにした。


「ええ、もちろん。いつでもお待ちしていますよ……む?失礼」


鈴木さんはぶぶぶぶとなり始めた携帯電話を持って部屋のそとへと消えて行った。


「……別に決めてくれてもいいのよ?」

「勉強したくないだけだろ?」

「…………ぐ」


俺が決めなかった理由の一つがこれである。もし内定が決まってしまえば、多分こいつはVtuber活動を盾に勉強しなくなる。

どうやら、案の定だったようだ。


「さすがにそれはな……」

「別にいいでしょ」


と口を尖らせる佳奈。


そんな会話をしていると、鈴木さんが外から戻ってきた。


「お待たせしました。どうやら、月宮ルーナの演者さんがもうすぐ来られるようです。お会いしますか?」

「ええ、会えるのでしたら」


コラボ相手(予定)だし、会えるなら是非会っておきたい。


「では、こちらへ」

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