コラボ編

第1話 コラボ依頼

「こんにちは。私、レインボー社員の鈴木里美と申します」

「…………っ」

「えーっと、こっちが神乃愛の演者で、私はSNSとかチャンネルの運営とかをしている如月佳奈です」


俺はこそこそと佳奈の背中に隠れつつ、ウイッグか崩れないようにぺこりとお辞儀をする。そしてきゅっと佳奈の袖を握り締めた。


「この子、配信の外だとこんな感じなので……気にしないでもらえると」

「そうですか……まあ、配信の外だと人格が変わる人、結構いますからね。構いませんよ」

「ありがとうございます。では、早速打ち合わせの方を……」

「ええ、早速」


鈴木さんと佳奈は、おそらく打ち合わせの場所であろう会議室へあるきはじめる。俺は視線を下に落としながら、佳奈のそでを離さずに歩き始めた。


俺がなぜこんなことをしているのか、それは3日前の昼休みにさかのぼる……


–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


「……それで、愛」

「どうした?」


いつものようにおかずとおにぎりを持ち寄り、屋上で昼食を共にしていていると、不意に佳奈が口火を切った。


「コラボ依頼が届きました」

「……こらぼ?」


聴き慣れない単語だ。


「えーっと、つまり、共演のお誘いかな。チャンネルに遊びにきて欲しい……もしくは、チャンネルに遊びに行ってもいいかっていう」

「……いいんじゃないか?」


俺は実はまだよくわかっていなかったが、とりあえずうなずいた。


「そ。ちなみに、お相手は月宮ルーナちゃん」

「月宮ルーナ……あ、もしかして切り抜きのあの?」


俺は『【切り抜き】図星をつかれあたふたするルーナちゃん【レインボー】』という如月から見せられた動画を思い出す。1ヶ月前のことなので、もうゆさゆさゆれる胸くらいしか印象に残っていない。


「そ。それで、なんだけど……一応、レインボーっていう事務所に所属しているんだよね。だから、打ち合わせしたいんだって。交通費はあっち持ち」

「打ち合わせ……まずくないか?」


対面で話すと、確実に俺の性別がバレる。女装しても声は誤魔化しようがない。すでに俺の変成器を通した声は、俺のチャンネルに上がってしまっているのだ。


「そうね……」

「かといってバラすのもな……リスクが高い気がするし」

「どうしましょうか」


うーむ。こまった。俺としては、コラボをするのはやぶさかではないのだが……


「あ、こういうのはどう?」


佳奈は何かをひらめいたような顔をして自分の案を言い始めた。


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そう、その案というのは、『無口な小動物系女の子になろう作戦(命名・如月佳奈)』。実際の会話は全て佳奈に任せ、俺はひたすら声を出さないように努める……という、まあただそれだけの作戦である。


「スケジュールの方は……」

「ある程度の柔軟は効きますが……」

「内容については……」


佳奈は、次々と交渉をすすめていっている。なんとも頼しい。俺は尊敬の眼差しで佳奈の方を見る。


「それで、今日、演者の一人がきているので、是非会って行きませんか?」

「え!?」


思わず、俺の口から裏返った声がでる。慌てて誤魔化すように俯くが、なんだか微笑ましいものでも見るような視線を感じた。

––––セーフ。


「いいんですか?」

「ええ。写真とかは禁止ですが……こちらへどうぞ」


鈴木さんはそう言って立ち上がると、会議室を出てスタジオの控室のような場所へ案内してくれた。

中にいたのは、背がちっちゃくて、くりくりとした目をもつ、まさに小動物と言った感じの女の子だった。


「こちら、レインボーで三番目に登録者の多い、『インフィニット・メビウス』の演者さんです」


すごい名前だな……まあ、神乃愛とかいう名前の俺がいえた話じゃないが。


「えーっと、こっちが」

「ねえ、あなた、男でしょ?」


なぜバレた。

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