第7話 プレゼント
「そうそう、今日、ちょっと出かけるところがあるから、愛ちゃんもついてきてね」
午後1時。いきなり佳奈がそんなことを言い出した。まったくをもって寝耳に水である。
「……え?どこまで行くんだ?」
「ほら、プレゼントがもう結構たまってるからね。取りに行かないと」
「……なるほど」
そういえば、私書箱のようなものに送られているのだったか。
「二人で発信器がついてないか確かめる作業があるのと……あと、食品類は全て処分が原則ね」
発信器……それで住所が特定されたりするのか。
「……流石に既製品はいいんじゃないか?」
「注射器とかで異物混入されているかもしれないからね……流石に怖いかな」
なるほど……
そすがに、注射器痕を探すのは骨が折れるし、見逃す可能性の方が高そうだ。
「じゃあ、お昼食べたら……ていう感じか?」
「まあ、そうだね。ここから電車で30分の場所にあるから割と近いよ」
「……そんな近くにあったっけ?」
「視聴者さんが送る住所から、さらに別の秘書箱へと転送してもらっているの」
なるほど。二段階にして、発送先を誤魔化しているらしい。
……ていうか、それだと余計なお金がかかるのでは?
そんな俺の疑問を見透かしたように、佳奈が続けて言った。
「お金は余分にかかるけど、交通費の方が高くなっちゃうからね。お金に関しては大丈夫。このままいけば収益化も近いから、それではらってもらえれば大丈夫だよ」
いわゆる出世払いというやつか。これは、がんばらなきゃいけない理由が増えたな……
「さ、早くお昼食べていきましょうか」
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そんなわけで現在、私書箱まで来ている。案内された部屋には1……2……全部で12もの大きな段ボール箱が置いてあった。引越しでもするのかという分量だ。
……このままいくと、俺の部屋ではスペースが足りなくなりそうであるが……まあ、今は気にしないでおこう。
「……これ全部チェックするのか?」
「まあ、そうね。早速やりましょうか」
佳奈が早速一つの段ボール箱を開ける。差出人は『久留米紳士』。中には、沢山のブルーレイ/DVDが入っていた。
『ソードアートオンライン』というスタンダードなタイトルから、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』というなかなかに攻めたタイトルのものまで。なぜかプリキュアも入っていた。
佳奈は一つずつ、異常がないかチェックしていく。
「愛はこれやって」
と、佳奈は突っ立って作業を見ていた俺に一つの段ボールを指差す。
俺はそれを持ち上げようとして……凄まじい重さに尻餅をついた。……書店でバイトしてたころ、似たような重さを体験したことがある。
つまり、中身はおそらく本だ。
俺は腰を痛めないようにしつつ、なんとか段ボールを下に下ろす。
差出人の名は、『タングステンカーバイド』……確か、原作を送るとコメントしてくれていた、原作派の人だ。
段ボールを開けると、予想通り大量の本が入っていた。全体的に青い『ガガガ文庫』、緑色の『MF文庫J』そして色とりどりな『電撃文庫』など。試しに一冊抜き取ると、ほとんど裸のような露出をした女の子がこちらに向けて微笑んでいて、俺は慌てて元に戻す。
す、すごい世界だ……
俺はとりあえず、『ソードアートオンライン』なんかのこの前の配信で取り上げたシリーズを抜き出してはぱらぱらとめくり、異常がないか確かめる。
とりあえず、これだけリュックに入れて持って帰ろう。
「愛、ちゃんと全部確かめてね」
「……わかってるよ」
俺は布を傍に広げ、その上にチェックした本を積み上げていく。1時間かけて、なんとかチェックを終えた。
「じゃあ、次、これね」
佳奈は俺の前にどんと段ボールを置く。中身は……なんだろう?小物類としか書かれていない。
俺は不審におもいつつ開き、中身を確かめた。
……中に入っていたのは、女性用の……なんというか、その……アダルトグッズだった。手紙が一緒に入っている。『僕のと同じサイズです。使用感をここに送ってください』そしてメールアドレス。俺はあまりの気持ち悪さに手紙を握りつぶして飛び退いてしまう。
「愛?どうしたの?」
佳奈がこちらを向く。
「あー……」
そして、何かを察したような顔をするとこちらに近づき、頭を撫でてきた。
「よしよし……私はそういう感情を向けられるのに慣れているけど、愛は初めてだもんね」
「ん……」
頭を撫でられ、少し落ち着いた。今度から、荷物をチェックするときは女装はやめたほうがよさそうだ。女装していると、そういう悪意への耐性が落ちる気がする。
「とりあえずこれはまとめて処分ね。一応、SNSでも警告しておきましょうか。愛、じゃあつぎこれよろしく。内容はほんだから大丈夫だよ、多分」
佳奈に助けられつつ、3時間かけて全ての荷物をチェックし、発送手続きを終えて俺は帰宅した。
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