いよいよデビュー!
第1話 初配信!
いよいよ、今日、五月十四日日曜日はデビュー日である。
現在は如月の部屋。初日だけでもそばで待機してほしいとお願いしたら、こうなった。
俺の格好は、如月に借りたゴスロリファッションである。今後配信するときは女装を義務付けられた。
ゴスロリ……意外と、如月はこういう服も着るらしい。
「準備はいい?」
「う」
緊張で震えてきた。
「大丈夫だって。自己紹介動画みたいにやれば平気だよ」
「自己紹介動画……」
俺の脳裏にトラウマが展開される。無限とも思えるリテイクの嵐。もっと可愛く!上目遣いで!そんな漠然とした要求に必死で応える時間。
……芸能人って、大変なお仕事なんだなぁということがよくわかった。
ちらりとコメントを見る。大体300人ほどが待機していて、すでに『愛ちゃん!』『俺に愛をください!』とかいうチャットが踊っている。
300人……かなり多い数字だ。なんだかんだ言って、まだVtuberの存在自体を知っている人も少ない。そんな中で、個人勢の俺の配信を見てくれている人……と考えると、上々の数字と言える。
「あなたの考えるさいきょーの女の子を演じれば、きっと視聴者はついてくるわ」
俺の考えるさいきょーの女の子……俺はちらりと如月を見る。俺にとってのさいきょーの女の子は、なんとなくこいつな気がするが……
「がんばってね」
如月はそういうと、部屋から出て行った。一応、他の人間の気配がしないようにとの配慮らしい。俺はゆらゆら動きながらシステムの調子を確かめ、真っ赤な配信開始ボタンをポチッと押した。
「地上のみなさんに、永遠の愛を!天より舞い降りた愛の天使、神乃愛です!」
自己紹介動画と同じように、如月の友人が作ったらしいハートマークのアニメーションを再生する。
“お、来た!”
“永遠の愛来たー!”
“このメッセージは削除されました”
“愛ちゃーん!!!!!!”
早速コメントが返ってくる。結構嬉しい。あと、早速削除されたコメントがある。ちらりと俺の動体視力が捉えたところでは、どうもセクハラじみたコメントをしようとしたようだ。
「たくさんのコメントありがとう!今日は初配信……ということで!まずは皆さんに、私のことを知ってもらいたなと思います!」
ひたすらテンションの高さを維持する。
画面を介すると、感情というものは目減りしてしまうも。だから、すこし鬱陶しくかんじるほどにテンションを高く保っていた方が良い……と、如月が言っていた。
配信が始まったことを知ったのか、視聴者数が徐々に増えていっている。
「それでは、ばん!」
事前に用意していたスライドとともに、俺のパーソナルデータを公開していく。
身長、誕生日、好きなもの、などなど。一通り紹介したところで、次の企画へと入る。
「では、これより私の配信で何をするのか決めたいと思います!何か案のある人はいますか?」
“雑談配信。お決まりだけど”
“ゲーム配信とか?”
“雑談配信じゃない、やっぱり”
“お料理配信……天使がものを食べるのかは知らないけど”
“食べるだろ。知らんけど……お料理か。愛ちゃんは料理とかできるの?”
「天使だってもちろんお腹は空くし、料理なら結構得意ですよ!三食自分で作ってますし!」
“うお、まじか”
“バーチャルでどうやってお料理配信するんだ?”
“それはまあ……技術でなんとか”
“お前、技術を甘く見てるだろ”
“ゲームでお料理すれば……”
“本末転倒な気が”
「じゃあ、最初の企画は料理配信にしてみましょうか。ちょっと時間がかかるかもしれないので、それまでは雑談配信とかゲーム配信をしましょうねー」
軽く論争が始まりかけたコメント欄を制するべく、俺は議論に早めに決着をつけた。コメント欄の制御が、この配信が成功する鍵になりそうである。
“お、それがいいな”
“大歓迎。あとは……歌配信とか?”
“歌配信いいな”
“選曲にも興味がある”
“愛を運ぶ天使……やっぱラブソングかな?”
まだ歌配信をやるとも言ってないのにどんな歌がいいかで盛り上がるコメント欄。なんというか……だいぶ自由奔放な視聴者が多いようだ。
「そうですね。歌配信は……登録者の記念配信とかでやるかもしれません。なのでみなさん、チャンネル登録お願いしますね」
“うまい”
“やり方がうまいな……まるで小悪魔のようだ”
“天使なのに”
“もちろんやりましたよ!”
俺の露骨な宣伝も少しは効果があったのか、チャンネル登録者数が一気に30人ほど増えた。
時計をチラリと見ると、もう配信開始から1時間は経過している。そろそろこの辺で今日は終ろう。
「そろそろみんなとお別れの時間がやってきたようです。今日の配信はここまで。また会いましょう!あなたの天使、神乃愛でした!」
ちょっと脈絡がなさすぎるかなと思いつつ、俺は配信を閉じた。
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