第9話 アバター、発表!

「じゃかじゃかじゃかじゃか…………じゃん!」


画面にアニメから飛び出てきたような美少女が映し出される。


金髪に、同じく金色の瞳。そして、背中から生えている一対の羽。天使をモチーフに作られたと思わしき造形だ。

……ていうか。


「胸、でかすぎないか?」


視線が自然と引き寄せられるのは、胸部にたゆんとゆれるおっぱいである。俺が今入れているCカップの擬乳よりも遥かにでかい。


「心配しなくてもちゃんと揺れるよ」


そういうと如月はかたかたとコマンドを打ち込む。

すると、アバターがゆらゆらと左右に揺れ、そしてお胸もゆらゆらと揺れる。


「これで視線を釘付けだよ!愛の視線も釘付けでしょ?」

「…………」


俺は無言で視線を逸らした。


「あと、こんな機能もついてるよ」


如月は別のコマンドを入力する。

すると、アバターが可愛く両手でハートを胸の前に作るアニメーションが再生された。


「……よく一週間でこんなの作れるな」

「それ系に強い友達がいるからね」


如月はそういうと胸をはった。画面の中の女の子ほどではないが、なかなか豊かな胸が強調され、俺は再び無言で目を逸らした。

ただえさえ今の如月はラフな格好なのだ。健全な男子高校生男子高校生にとってはかなり目に毒である。


「それで、名前はなんていうんだ?」

「神乃愛ちゃん!いい名前でしょ?」

「いい名前っていうか……」


俺の名前、ほぼそのままじゃないか。


……まあ、声はボイスチェンジャーを通すんだし、さすがに正体がバレることはないだろう。


「さあ、そうと決まれば早速動かしてみようか。今日中に自己紹介動画をとってSNS開設まで済ませちゃおう!」


ずいぶん急なスケジュールだが……なんとかなるだろう。俺も最近バイトを辞めた……というよりバイト先が潰れてひまだし。


「……自己紹介動画って、どんなやつなんだ?」

「うーん、見てみた方が早いかな?」


そういうと、如月は一つの動画をポチった。

タイトルは……『【レインボー】月宮ルーナです【Vtuber】』

どうやら、この前見た切り抜きVtuberのもののようだ。


『月の世界からこんにちは。このたびレインボーからデビューすることになりました、月宮ルーナですわ』


そんな出だしからはじめて、はきはきと今後の配信の方向性なんかを話している。

『月の世界よりこんにちは』というのは、この人特有の挨拶みたいなものだろうか……キャラ付けの一貫か。


この”神乃愛”なら……『無限大の愛を!こんにちは、神乃愛です!』とかだろうか。……ちょっとありきたりすぎるか?


「うーん、ありきたりなぐらいがちょうどいいと思うよ。ありきたりってことは覚えやすいってことだからね」


なぜか俺の思考に返事をする如月。ちらりと顔を伺うと、にやにやとこちらを見てきた。


「いやー、染まってきたね」


どうやら思考が垂れ流しになっていたようだ。


「……………それはともかく、これってかなり重要なものじゃないか?」

「まあ、そうだね。これで最初の視聴者数が決まるといっても過言じゃないよ」


う……さすがの俺も、視聴者が一人とかの状態で配信ができるほど心臓が強くない。なんとしてでも、自己紹介動画で心をつかむひつようがあるだろう。


「じゃあ、早速取り掛かろうか」


如月はそういうと、にやりと笑った。

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