第7話 チラシ配り

配るのは、新しくオープンするカフェの宣伝チラシだ。


手書き風のイラストに、簡単なメニュー紹介、50円ほどのクーポン、そしてぜひきてね!という言葉。

まあ、そんな感じのお決まりのやつである。


目標数は100枚。全部配れたらミッションクリアらしい。


今の俺のファッションはお決まりのゆるふわロリータファッションだ。


如月はというと、駅前にぽつんと立ってちらしを配る俺を、遠くの方でタブレットをいじりながら眺めている。


俺は近づいてきた男性にチラシを差し出す。


普通にスルーされた。


普段バイトするときは別になんとも思わないが、今回はなぜか結構傷ついた。


知らないうちに、俺の美少女形態に対する自身のようなものがついていたらしい。


俺は気を引き締め直し、いつもの如月を思い出して上目遣いで渡してみる。


すると、先ほどまでのスルーが嘘のように、するするとチラシがはけていき……そして、思いっきりトラブルに巻き込まれた。


カップルに差し出したところ、女性の方がバシッと手をはらう。


「…………っ」


払われたチラシは俺の手を離れ、風に煽られてどこかへ飛んでいってしまう。


「おい、何やってるんだよ!」

「はあ?別に、チラシを払っただけだけど?」

「謝れよ!」

「はあ?あなたがデレデレしているのがいけないんでしょ?だいたい……」


まずい。目の前で喧嘩が始まってしまった。しかし、(物理的に)声を出せない俺にはおろおろするしかない。


俺は『困ったら涙目になれば誰かが助けてくれるよ』という如月の言葉を思い出す。


涙目、涙目……いや、そんな簡単に作れんわ。


目の前のカップルの喧嘩はもはや関係ない話題、そして相手の人格攻撃へと移っていってしまっている。


頼むからよそでやってくれ……


俺は迷った挙句、そそくさとその場所を離れることにした。大丈夫。許可はこの駅周辺で取っているらしいので、反対側の入り口でやれば問題はない。


……と、思ったのだが。


「なんとかいいなさいよこのアマ!」


流れ弾が飛んできた。


「…………っ」

「おい、やめろよ!困ってるだろ?その子」


しかし、当然俺は話せない。と、そこで偶然通りかかった救世主が。


露骨に力あるアピールをしてきた、”デカロゴ”坂田 徹(制服ver)である。


俺は少し感動を覚えた。まさか、そんな勇気を持ち合わせ……持ち合わせ……


……………。


鼻の下が思いっきり伸びていた。普通に女の子に惹かれて寄ってきただけのようだ。あと、ここで飛び出る俺かっこいい……と考えているのが丸わかりだ。


………ま、まあ助かるのは事実。このままうまくやってくれることをいのろう。


「カップルなんだから、仲良くしなきゃダメじゃないか!」

「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」


もちろん、火に油を注ぐ結果に終わった。

上から目線で高校生が大人に意見したらまあそうなる。


「ふん、ほっときなよそんなやつ。どうせここで醜く争う程度の脳しか持ってないんだから」


なんか聞き覚えのある声だな……と思って振り返ると、そこには”制服”吉田 武志が立っていた。……ていうかお前、そんなキャラだったのか……。


よくみると、”キーホルダー”山本拓哉と”えっと”植木智也も立っている。そして、俺を守るように四人は立ち塞がった。


いくら高校生とはいえ、男子四人も並べば結構な威圧感がある。カップルはちょっと冷静になり、周りの目も気になったのか、争いをやめ、すごすごと退散して行った。


「大丈夫か?」


おお、今回は若干かっこいい。

俺は四人に袖クイしながらチラシを渡す。4人はそれをお礼と思ったのか、喜んで受け取ってくれた。


……よし。これで一気に4枚がはけたな。

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