第4話 合コン()
ダメだった。
自己紹介を終えたそのわずか数秒後。場は静まり返っていた。
男子4人はそれぞれ視線で誰が話を切り出すか争っている。
莉子さんと凛さんの二人は場に介入する気がないのか、お好み焼きに夢中だ。
そして、如月はにやにやと笑うだけで役に立たなそうである。
「えーと、そのー、えー…………」
”キーホルダー”山本拓哉が話を切り出そうとしたが、場の空気に撃沈した。
地獄の空気だ。これで連絡先交換に持ってくのか……なんか簡単な気がするが。
……と、如月からメール。
『件名・今地獄の空気に苦しんでいる愛ちゃんへ
連絡先交換するだけじゃなく、最低限その二人のプロフィールくらいは聞き出しましょうねー』
……………。
「えーっと、4人とも同じ学校なんですか?」
「そうですよ!」
会話終了。会話のキャッチボールしろよ。
「ごほっごっほ、ごっほ」
と、右隣の莉子さんがむせる。多分、飲み物を口にしたまま笑い出してしまったのだろう。
「大丈夫?」
「大丈夫か?鈴木」
「何かとってくるか?」
「大丈夫か?」
ここぞとばかりに口々と気遣う言葉を放つ4人。
俺の感想は……まあ、うっわぁとしか言いようがない。
まず、これまで無口だったくせにいきなり心配を口に出すのがかっこ悪い。そして心配している俺かっこいいと思っているのが透けて見えるのが一番かっこ悪い。
「だ、大丈夫だよ。それよりほら、もうちょっと会話しよ?せっかくの機会なわけだし、愛ちゃんにも聞きたいことあるでしょ?」
「う、うん……えっと、愛さんは学校で何か部活とか入ってますか?」
莉子さんの非常にやさしいアドバイスに従い、”制服”吉田 武志が話題を切り出す。……っていうか、普通に二人称がしたの名前になっている。まあ俺は別に慣れているから構わないが。
「いや、バイトとかしてるから入ってないよ」
「へえ、バイト!どんなバイトしてるんですか?」
「接客業とか……あとは書店かな。結構力仕事だから大変」
露骨に力ないアピールなどして、バレる余地を減らしておく。
「ふふ、重いもの持つなら任せてくださいよ!これでも運動部なので!」
「う、うん。よろしくお願いしますね……」
露骨に力あるアピールをしてくる”デカロゴ”坂田 徹。
俺の反応がお気に召したのか、むん、むんと力瘤を作って見せてくる。
「わはは、すごいねー」
と莉子さんが笑いながらいった。一見快活そうに見えるが、普通に笑いを誤魔化しているだけなのが手にとるように……男子はわからなかったようだ。
そして三度の沈黙。
「えっと……えっと、えっと……」
言葉を探しているのか、とりあえずえっとと繰り返す”卑猥”植木智也。さすがにかわいそうなので”えっと”植木智也にしておこう。
「す、好きな食べ物はなんですか?」
絞り出した話題がこれらしい。俺は聖女のごとき慈悲を持って答えてあげる。
「えーっと、お寿司かな?食べやすくて食べすぎちゃうのが欠点だけど」
「そうですか!自分は、ハンバーーーーグ!」
突然大声でハンバーーーーグ!ともはや奇声の如き声をあげる”えっと”植木智也。
俺は呆然とするしかない。なんだ?どうした?脳が壊れたか?
「あはは、知ってるよー。ハンバーグ師匠でしょ?」
と、俺を遥かに超える慈悲を持って莉子さんが対応する。
「うん!」
「でも、店内で叫ぶのはやめて欲しいかなー」
「すいませんっす……」
子供のようにしゅんとうなだれる”えっと”植木智也。
もはや一周回って可愛く思えてきた。これが母性というやつだろうか……
その後も常時こんな感じで合コンは進行していった。控えめにいって、地獄だった。
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