第2話 デート()

そして迎えた土曜日の朝。


「お待たせ。待った?」

「待ってないよ、きさら……佳奈ちゃん」


駅前のショッピングセンターにて。一足先に、俺と如月は合流した。

合コンは今日の11時から。つまり、あと3時間ほどの時間がある。


「ふふふ。なかなか可愛いよ、愛


如月はそういうとニヤリと笑う。


「う……」


俺は思わずたじろぐ。


今の俺の格好は、如月に写真で見せたあのロリータ系ファッションだ。


男性らしさを隠すため、ウイッグで髪を伸ばし、チョーカーで喉仏を覆っている(喉仏は男性にしかない器官なのだ)。

胸には詰め物をして、Cカップの擬乳を作っている。その気になればFカップにすることもできるが……流石に、重くて取れるのが怖いのでやめておいた。


ここまでしても、見る人が見れば体格で男だとわかりそうだが……周りの視線(主に胸。残念だったな、擬乳だぞ!)を見る限り、気づいている人はいなさそうだ。


ちなみに、この格好をしている時は『佳奈ちゃん』と呼ぶように厳命されている。


なぜこんなことになったのかというと––––


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「デートしましょう」


合コンをすることが決まった次の日。お昼ご飯をいつものように共に屋上でとっていると、唐突に如月がそう言った。


「ええ……」


対する俺は微妙な反応を返す。

如月ほどの美少女とのデートはとても光栄だが……俺の脳裏にデートと称して連れ回された忌まわしき記憶トラウマが蘇る。


二日間いろんな映画のフラッシュバックが止まらなかった、映画の梯子。

三日間筋肉痛がとれなかった、スポーツセンター。

四日間胃もたれが治らなかった、スイーツ巡り。


如月は、運動能力は平均のくせに体力がすさまじい。故に、こいつとデートすると大抵ろくなことにならないのだ。


「……で、どこへいくんだ?」


俺が警戒心露わにそう問いかけると、


「ショッピングセンターかな。さすがに合コンに行く服なんてもってないでしょ?」

「え?いや、あると思うけど」


一応、男子高校生としてそれなりの服は持っている。


「さすがにあのロリータファッションはねえ……なんか、アンモラルな気がするし」


…………。

……………………。

………………………………。


「……え?合コンって、まさか」

「言ってなかったっけ?愛は女の子側だよ」

「はあ!?」


如月はニヤリと笑った。

あ、悪魔だ……


「そりゃそうだよ。だって、美少女Vtuberになるんでしょ?」

「まあ、それは……確かに……確かに?」

「だから、ちゃんとデートにも女装して来てね。約束だよ?」

「…………はい」


ここで必殺の上目遣い。ついでに袖クイ。

とてもあざといが……残念ながら、そのあざとさにも俺は勝てなかった。


「一人称は、ちゃんと私。……いや、愛でもいいかな?でもちょっとあざといような……うーん」


如月は何かとんでもないことを一人で考え始めた。

俺はため息をついて、女装について考えを巡らせ始めた––––


–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


––––というようなことがあったためである。


「さぁ、行きましょ!」


如月はそういうと、ぎゅっと手を握ってくる。

うわ、柔らかい……俺は緩く握り返す。多分、いま俺の耳は少し赤くなっているはずだ。そして、周りからは微笑ましく見られていることだろう。


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