いわゆる所の修行パート
第1話 Vtuberとは?
ところで。
俺の名前は神川愛。
みんなは俺のことを"愛"と呼ぶ。せっかく"神川"という日本でも一位二位を争うほどのかっこいい名字(と俺は勝手に思っている)があるのだから、そちらで呼んで欲しいが……現実は非情である。
現在ピッチピチの高校一年生である。成績は中の中。運動能力は中の中。ごく普通の、平凡な男子高校生だ。
如月佳奈について話そう。
如月佳奈は、校内一の美少女として有名な少女である。魔性とも称えられるその美貌により誤解されやすいが、彼女は成績とか運動能力とかは平凡である。俺とどっこいどっこいだ。どうやら、天は二物を与えずというのは本当だったらしい。
「……で、Vtuberってのはなんなんだ?Tuberとは何か違うのか?」
Tubeというのは最近出てきた動画投稿サービスのことである。なんと動画を投稿し、それをみてもらうだけで金を稼ぐことができる、画期的なシステムを導入して大流行。一攫千金を狙った、多数のアーティスト志望者や、動画投稿者が現在絶賛出現中である。
そんな夢見る動画投稿者たちを、Tuberと総称するのだ。
「うーん……見てもらう方が早いかな?」
如月は食べ終えたお弁当を脇に置いて、いそいそとスマートフォンを取り出す。ぺとぺとと画面を叩き、Tubeのひとつの動画を示してきた。
動画のタイトルは……『【切り抜き】図星をつかれあたふたするルーナちゃん【レインボー】』。
「切り抜き……ってなんだ?」
「ライブ配信の見所を切り抜いたもの……かな?」
「へえ……」
動画の中では、アニメから出てきたような二次元の女の子が、ゆらゆら左右にゆれたり(ついでに胸もゆらゆらゆれていた。……たぶん現実でこんなにゆれたら、痛くて仕方ないと思う)、まばたきしたり、少しだけ表情をかえつつ喋っていた。
「……これどうやってるんだ?」
「絵のデータを、カメラで検出した動きと同期させているのよ。カメラがまばたきを感知したら絵もまばたきをする……みたいな風に」
「へー、便利な技術だな」
今はそんなこともできるのか。
「……それで、その技術を使っているのがVtuberってやつってことか?」
「そ。どう?これなら、美少女になれるよ」
「いいな……ただ、絵とか……機材とか……色々クリアしなきゃいけない問題はあるけど」
「絵なら大丈夫。あてがあるよ。機材は、ちょうど都合よく私の姉がTuberになろうとして挫折していたから、それを使えばいいんじゃない?」
全ての問題が解決してしまった。
「それなら、やってみるか」
「まあでも、機材はただじゃないわけだし。絵のあてもただじゃないわけだよね」
「う、確かに……」
両方合わせて、下手すりゃ数百万にもなりうるだろう。
どうしようかと頭を抱える俺に、如月は一本の蜘蛛の糸を垂らす。
「条件次第で出世払いにしてあげなくもないよ」
「ほんとか!……条件っていうのは?」
俺は一瞬無邪気に喜びかけて、はたと止まった。
大体、こういう時は無茶難題が飛び出してくる……というのがお決まりである。
「そうだねえ。まずは合コンかな?」
「まてまてまて」
なんでVtuberの機材提供の条件に合コンなんてものが出てくる?
「Vtuberに必要な能力はなんだと思う?」
「……トーク力と……あと、炎上しない能力とか?」
俺はニュースで見た発言が炎上してチャンネル削除に追い込まれたTuberを思い出しつつ答える。
「そうだね。あとは、ゲームがうまかったり歌がうまかったりするといいけど……そこはまあ、今はいいかな。そう……つまり、トーク力が重要なんだよ。それを鍛えるには?」
「人と話す?」
「そう、つまり?」
「……合コンが最適解ってことか?」
なんだかこじつけな気がしなくもないが……
「まあ、行けば分かるよ。愛には、そこで最低でも二人と連絡先を交換してもらうよ。そうすれば、とりあえず第一段階はクリアだね」
二人の女の子……そもそも、合コンなど行ったことのない俺にはそれがどれくらいの難度なのかさっぱりわからない。
連絡先ぐらい、簡単に交換できると思うが……いや、案外警戒されてできないのか?
「予定は、今週の土曜日でいいよね?」
「……まあ。っていうか、人数は集まるのか?」
学校では俺以外と会話しているのを見たことがないこいつに、合コンに足る人数を集められるとは到底思えないが……
「そこは心配しなくても大丈夫。これでも、学外には結構顔は広いからね」
そういうと、如月はなぜか悪魔的な笑みを浮かべた。
ゾクリとするほど美しいが……同時に、なんだかとても怖かった。
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