俺は美少女Vtuberになる!

狂咲 世界

プロローグ

プロローグ

男はみな、心のうちに美少女になりたいという願望を秘めている。


別に美少女になって何かしたいわけではない。チヤホヤされたいわけでもなければ、かっこいい彼氏をつくりたいわけではない。

ただ、純粋にかわいい女の子になりたいのだ。


「つまり、愛も可愛い女の子になりたいってこと?」

「そういうことだ」


俺はうなずいた。


「校内一の美少女たる如月佳奈なら何か思いつくと思ってな」


すっきりと整った目鼻立ち。艶やかな黒髪。

間違いなく、如月佳奈は美少女である。


「……褒めても卵焼きしかでないよ?」


如月はそういうとお弁当の卵焼きをあーんとしてくる。

遠慮なくいただこうとしたところで、ひょいっと食べられてしまった。いつものパターンだ。


「何か方法はないか?」

「うーん……女装するとか?」

「それだと、声はそのままだろ?」

「なんか経験あるみたいな言い方だね」


鋭い。もちろん、女装は最初に試した。化粧やウイッグなど、あらゆるを駆使して美少女を目指した。結論から言うと、なかなかいいものが出来上がったと思う。


「見せて?」


上目遣いでこちらを見る如月。自分の魅力の使い方をよくわかっている。

俺はあっけなく陥落し、スマートフォンを取り出して女装した自撮り写真を画面に表示させる。


「わ、わ、かわいいじゃない!」


お目目をキラキラさせてそう言う如月。

画面の中の少女(俺のこと)はロリータ系ファッションに身を包み、恥ずかしそうに画面のこちら側を見つめている。


……我ながら、よくこんな表情ができるものだ。


「ただ、声がなあ……」


美少女の定義は様々だと思う。しかし、俺としては、容姿、性格に加え、声が美少女の重要なファクターの一つだと思うのだ。


例えば目の前の如月佳奈。素朴感のある、よく通るいい声をしている。


しかし、俺ではどう頑張っても美少女らしい声を出すことはできなかった。ボイスチェンジャーでも使えば話は別だったかもしれないが……流石にそんなものを常につけているわけにはいかない。


「あ、ひとつ思いついた」

「なんだ?」


と、やや唐突に如月がそう言った。


「Vtuber、とかどう?」


それが、Vtuber"神野愛"が誕生するきっかけだった。

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