第15話
「薬師寺君、着いたよ」
「ここは……」
体感三十分ほど走ったところで車が止まった。
そして降りると、目の前には洋風の大きな建物が。
まるで城だ。
車を止めたのはその手前の大きな門のところ。
俺が降りると自動で扉が開く。
「一条家へようこそ、薬師寺君。ふふっ、男の人を連れてくるのって初めてだから緊張する」
一条は嬉しそうに笑う。
そして一条の母親が運転席から降りるとすぐに。
「さっ、中にはいって。今日は特別に使いのものは全員待機させてあるから」
そう言って俺を家の中へ案内する。
大きな門をくぐると、これまた大きな庭。
その敷地だけでうちの実家が何個か入りそうなほど広い庭を通過して彼女の家の前まで。
近づくと余計にデカく見える。
もはや要塞。
こんなところに入ったらそれこそ二度と出れないんじゃ……いや、しかし今から逃げるという選択肢はない。
多分、逃げられない。
うまく立ち回ることに集中しろ。
「失礼します」
恐る恐る、扉の向こうへ。
すると、赤い絨毯が一面にひかれたどでかい家の中が。
「……すげえ」
まるで富と権力の象徴のように、家の中央には知らないおじさんの銅像が。
一条家の創設者?
「この人はね、私のおじいさま。一条財閥をここまで大きくしたのはおじいさまなの。もちろんまだご存命よ」
「おじいさん……この人は今どこに?」
「世界中飛び回ってるからわからないの。薬師寺君、もしかしておじいさまにもご挨拶したかった?」
「あ、いや別に……」
「もう、照れなくていいのに。じゃあお母さん、もうここでいいから」
「そうね。じゃあお父様が帰ってくるまで二人でゆっくりしててね」
そう言って広い家の奥に一条の母親は引っ込んでいった。
「じゃあ、私の部屋にこない?」
そしてすかさず一条が。
俺の腕を掴みながら誘惑してくる。
「……さすがに女性の部屋にあがらせてもらうのはどうかなあ」
紳士を演じながら抵抗してみる。
しかし。
「やなの? やなんだ? 死ぬ?」
「行きます行かせていただきます」
「ふふっ、薬師寺君ったら照れ屋さんなんだから」
背中に冷たいものが当たる感触と共に俺は折れた。
多分あれ、ナイフか包丁だ。
なんかチクッてしたし。
やばい、まじで殺される。
部屋なんか行って大丈夫か?
……いや、今更ジタバタしても仕方ない。
こうなったら腹を括って一条と話し合おう。
俺は一条と付き合うつもりはあるが、今すぐ結婚に踏み切らなくたっていいだろうと。
学業を優先したい……ってのはダメだ、優先するなと言われる。
じゃあ、せめて大学卒業くらいは……それもダメ、結婚してても通えると言われる。
じゃあ……そうだ、うちの両親への確認が必要だと言おう。
あいにく俺は両親に結婚の報告すらできやしないんだけど、そんなことはまだ知らないはずだし。
よし、それでいこう。
「ここだよ薬師寺君」
「ほう」
案内されたのは、玄関のそばにあった大きな階段をのぼってすぐの部屋。
中は二十畳ほどのどでかい部屋だ。
数人は寝れそうなキングベッド、そして見たことのないサイズのモニター。
あとはびっしり本が詰まった本棚。
質素な感じだが何もかもでかい。
さすがだ。
「寂しい部屋でしょ?」
「整頓されてていいんじゃない?」
「ふふっ、片付けたの。薬師寺君のものも置かないとだから」
「……あのさ、そのことなんだけど」
また話が向こうのペースですすむ前に。
俺は意を決して話題を切り込もうとした。
その時だった。
「あ、何があっても結婚はするからね。延長とか、そういう話なら今ここで地下に落ちてもらうから」
「え、いやいやそういう話じゃなくて」
「ちなみに部屋の外にはSPがスタンバイしてるから。ジタバタしたら射殺されるから気をつけてね。で、何?」
「……何もありません」
ジタバタもさせてもらえなかった。
そして、結婚を延ばす話など到底できず。
「それよりこっちきて。ベッド、ふかふかだよ?」
ベッドに腰掛ける一条は、隣をぽんぽんと叩いて俺に座るように促してくる。
俺は、黙って彼女の隣へ。
「ふふっ、ドキドキしちゃう。初デートの後はここでいーっぱいしようねー」
予約された。
色々。
俺はここで理解した。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、なんて言葉はそもそも間違いだと。
そもそも。
虎子を得ようとしたらダメなんです……。
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