第二十六話 真相
「すいませんでしたああぁぁ!!」
クリスマスの翌日、十二月二十六日。赤木家のリビングに、貴史の謝罪が響き渡った。
「私が旅行を計画してしまったばっかりに、皆さんを巻き込んでしまいました! 許してください!」
深々とお辞儀をした貴史を見て、祐子が口を開いた。
「ほんと、倉庫が爆発したときはどうなるかと思ったわ」
「そうだよ。衝撃過ぎてあんまり喋れなかったんだからな」
三太も口を尖らせて言う。鈴は二人の様子とは違って、貴史を擁護する姿勢を見せた。
「でも、楽しかったよ」
はにかむ鈴に、祐子が噛みつく。
「あれのどこが楽しかったのよ!? 人生で一番とんでもない経験をしたわ」
「俺もオカマだと思われたし、二度とあんなことしたくないね」
むすっとした顔をする二人に、貴史はもう一度頭を下げた。
「ほんとにすまなかった。まさかあんなことになるなんて思わなかったんだ。もう旅行行こうなんて言わないよ……」
「いや、リベンジしなきゃ」
三太が貴史を慰めるように言った。
「そうね。また今度改めて温泉旅行いきましょ」
祐子の言葉に、貴史が顔を上げた。
「ほんとに!? 行ってくれるのか!?」
「当たり前でしょ。今回みたいな危険なことがあっても、あなたは身を挺して私たちを守ってくれることが分かったからね。安心していけるわ。ありがとうね」
貴史の目に、涙が溜まっていく。
「うわあああぁぁぁぁ……ありがとうぅう……」
貴史は絞り出すようにそう言った後、ガッチガチにギブスで固めた右腕で、涙を拭いた。
家に帰ってきた後、念のために病院に行った。結局、腕にひびが入っていたようだ。ちなみに三太はというと、精神科を進められた。高所に行くと別の人格が現れるという話を医者にしたら、二重人格だと診断されたのだ。晴れて、精神科デビューである。
「というか、どうしてあんな大爆発だったのにお父さんは無事だったの?」
腕にしたギブスを見て不思議に思ったのか、鈴が聞いた。
「あ、聞きたい?」
貴史は待ってましたとでも言うように、滔々と語り始めた。
貴史が覚醒剤をまき始めた頃、三つ目の袋に取りかかった時であった。
『貴史、』
ソリ町が、貴史に呼びかけた。「なんだ」と返すのも待たず、ソリ町は続ける。
『貴史のやりたいことが今分かりました。自分も犠牲にするつもりのようですが、そんなかっこいいことは私がさせません』
貴史は目を見開いて、どういうことだと返す。
『あなたがやりたいのは、粉塵爆発ですね?』
貴史は深く頷く。
『安心してください。爆発する直前に、タブレットにあるドクロマークを押して』
貴史はそれを聞くと、一旦覚醒剤を置いて、タブレットを開いた。一番下にある、ドクロのマーク、自爆ではないのか。
『それを押せば、あなたは助かります』
「これって、自爆するボタンじゃないのか?」
『全然違いますね。それはシェルターです』
これってシェルターだったのか。ドクロの意味を知っているのかと詰問してやりたいが、そんなことをしている時間も無い──というか、シェルター機能があまりイメージできないな。
「ソリ町、シェルターってどんな感じだ?」
『ソリを大きく展開し、丸形になります。中に貴史とトナカイを入れて、周りの衝撃からあなた達の身を守らせて頂きます』
そういうことが出来るならもっと早く言って欲しかった。命を捨てるつもりだったが、早まらなくてもいいかもしれない。光明が差した気がする。
「分かった。銃を撃たせて爆発させるつもりだから、敵が構えた瞬間にそのボタンを押すよ」
貴史は敵に聞こえないように、身をかがめ囁き声で言った。
『それともう一つ』
あくまで機械的な口調を崩さず、ソリ町が言う。
『このまま爆発させると、麻薬の成分が充満する恐れがあります。無事に爆発から逃れたとしても、最悪の場合、麻薬中毒で死に至るかもしれません』
「じゃあ、どうしろって言うんだ?」
『酸素マスクです』
貴史はそれを聞いて、なるほどと得心した。確か、ぶどうのボタンだったはずだ。ここで役に立つとは。予想も出来なかった。
「これで薬物からも身を守れると」
ソリ町は何も言わなかったが、深く頷いているような気がした。
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