第二十話 集結。再始動。
「やった! 気付いてくれたぞ!」
貴史と祐子は抱き合う。
「メリークリスマス! そんなに騒いでどうしたんだ──って、あの家族じゃないか!」
サンタが赤木家の顔を見るやいなや、手を打ち鳴らして喜んだ。ソリ町の横にトナカイを止めて、彼はスタイリッシュに降りてきた。
「君は、あの都こんぶの子か!? 大きくなったな!」
サンタは三太の肩を叩く。なんだかややこしい。
「サンタさんはあたしのこと知ってるわけ?」
三太は惚けた顔をする。やはり十七年前のことは、あんまり覚えていないらしい。
三太の口調を聞いたサンタは、少し微妙な表情をした。確かに、まさかオカマになっているとは予想だにしないだろう。
「あ、いつもオカマな訳じゃないんですよ」
「はあ……」
貴史が必死にフォローを入れるも、サンタは微妙な表情を崩すことは無かった。変な雰囲気が流れ出したところで、サンタは気を取り直して貴史に聞いた。
「さて! 一体どうしたんだ? そんな必死に儂を呼び止めて」
問うたサンタに、貴史は一つ一つ説明をした。拉致されたこと、今すぐにこの麻薬を届けないと、娘の命が危ないこと、ソリの充電がなくなって、どうしようもないこと。
それを聞いたサンタは一度考え込むように目をつむり、ポンッと手を打ち鳴らした。
「分かった! 儂に出来ることがあれば協力しよう!」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
赤木家全員で礼をすると、サンタは顔を赤らめた。
「全然大丈夫だ。気にすることはない」
サンタはそう言うと、トナカイの一頭に手を置いた。
「それじゃあ、この子たちを君たちに貸そう。ソリの充電も、私のを分けてあげるよ。それがあれば、目的地までにはたどり着けるだろう。ちなみに、いつまでに持って行けばいいんだ?」
夜明け前まで、という返答に、サンタは驚愕の表情を浮かべた。
「夜明け前までだと!? そんなの、あと何十分もないじゃないか! いけるのか?」
サンタの声に、岩ノ上が反応した。
「そこは大丈夫です! プロサンタ騎手なので、おそらく二十分あれば目的地までたどり着けます」
「そうか! 偶然にも、逸材がいるってわけだな」
サンタの顔に、優しい皺が浮かんだ。ちらりと覗いた白い歯。優しさが溢れ出てくるようだ。なんだか、行ける気がする。
「それじゃあ、太陽が昇ってしまう前に、早いとこ出発しよう。さあ、準備だ」
サンタが声を張り上げる。みんなもそれに続いて、かけ声を出した。一体感が、背中をしてくれる。このまま、突っ走ってしまえ。
トナカイをソリ町に結びつけ、サンタのソリから充電を拝借した。
「私も着いていっていいか?」
サンタが提案する。
「もちろんです! 六人で行きましょう!」
「よし、ありがとう。お役に立てるかは分からんがな」
サンタは笑って、鈴と横に乗った。その後に、サンタが座る。ぎゅうぎゅう詰めだ。しかしそれが暖かそうで、なんだか微笑ましい。
「そうか、君が鈴さんか」サンタが鈴の方を向いて、優しく語りかけた。
「私のこと知ってるんですか?」
「ああ。十七年前にちょっとな。直接は会えなかったが。その時君は受精卵だった」
「ちょっと、気持ち悪いから止めてあげて」
三太が咎めると、サンタが笑いながら鈴に謝った。
「じゃあ、一つ教えてあげよう」
サンタは鈴の方をむき直す。
「君が生まれてきたのはな、この子のおかげなんだぞ」
三太の頭に、手をぽんと置いた。まさか自分に話題が来るとは思わなかったのか、三太は惚けた表情で、サンタを見つめた。
「この子がな、十七年前のクリスマスに、妹が欲しいって私に願ったんだよ」
「ちょっと、止めてよ!」
三太は顔を赤らめて、サンタの手を払いのけた。サンタの話を聞いた鈴も顔を赤らめながら、サンタを覗き込んだ。
「それってほんとうなの?」
三太は目をそらし、ぽつりと呟いた。
「まあ、そうだけど」
「へえ。そうなんだ」
鈴も三太から目をそらした。視線を落ち着かせるように、目の前の座席を見つめる。
「だからどうって訳じゃないけど、なんか嬉しいもんだね」
「鈴……」
三太の目に、涙が溜まった。
「やだ鈴ったら、泣かせるじゃない! 案外素直なのね!」
「うるさいわ! というか、早く出発して! 爆発するじゃない!」
サンタは、高らかに笑う。
「よし! 準備完了だ! それじゃあ岩ノ上君、よろしく頼んだ!」
「任してください! いつも以上に、ハイスピードで行きますよ! 今日は一位を取ってやる!」
岩ノ上のかけ声を後押しするように、一陣の風が吹いた。追い風だ。
「風も味方してくれとるな! 大丈夫だ。このサンタクロースが保証してやろう!」
サンタの野太い声は、何よりも頼りがいがあった。きっと大丈夫だ。鈴も死ぬことはないし、誰も傷つかない。温泉旅行は、またの機会に行こう。きっとその時は、家族の距離がもっと縮まってるはずだ。
「さあ、出発!」
岩ノ上は叫び、アクセルを踏み込んだ。手には縄が握られている。
「この縄を上手いこと操るとね、トナカイは早く走ってくれるんですよ」
彼の手に収まった縄が、縦横無尽に駆け巡った。どんどんとスピードが上がっていく。冷たい風が、頬に痛い。
「おおすごいな! 儂とトナカイの付き合いも長いけど、こんなスピードは出せん。さすがプロだな」
サンタのお膳立てに、岩ノ上が笑う。三太と祐子もはしゃいでいる。
「かっこいいわ! 全財産掛けちゃおうかしら!」「ほんとイケメンね! あとで連絡先でもくれないかしら!」
賑やかで、危なっかしい。が、それが楽しい。貴史は赤木家の本質を垣間見たような気がして、思わず笑みを零した。黒かった地平線に、白が混ざり始めている。もう時間がない。クリスマスイブが、終わろうとしている。貴史が明るみ初めた夜を、鋭い視線で睨みつけた。
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