第3話 三人目

「ええっ? ううちょですか? 困ったな、ううちょとは取引してないんで」


 ――取引ってなんの? 区役所と銀行が?(わたしはようやく我に返りました)


「他には、口座のある銀行はありませんか」


「あ、糸引き納豆銀行なら」


「糸引き納豆ですね? 糸引きは大丈夫です。ただし、この特典を受けるには条件がありまして」


 ――いま特典って言った? 特典なの? 


「その銀行に三十万円以上貯金があることか、または七年以上付き合いがあることなんですが、いかがですか?」


 ――なんで? なんで? なに言ってんの?

 わたしはメモを取りながら電話をしていましたが、自分で書いたメモの内容が尋常で無いことに気がつきました。


(自分で銀行に取りに行くこと)

(持ち物→ 通帳・カード・本人確認)

(特典 三十万・七年)


 すべてのベクトルがを指し示していました。あれれ?


「いかがですか?」ダイオウグソクムシが返事をせかしました。


「大丈夫です。七年以上口座を持ってますから」


「ええと、ウホン、ウホン」ここではじめて、敵は言いよどみました。


「もう一つの方はどうですか? 三十万のほうは?」


「ありませんよ。そんな大金)


 ――重い沈黙。なんでだよ。悲しいのはわたしだよ!


 横柄で饒舌な男は気を取り直したかのように、話を続けました。


「それでは、これから1時間後くらいに、銀行の担当者から電話がありますから、その男から話を訊いてください」


「はい、わかりました」


「ではよろしくお願いします」


 電話が切れました。

 わたしは受話器をいったん置くと、三人目の電話を待たずに通報しました。

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