第42話 最強を形成欲
「樹生!」
樹生の状況に気づいたアナが叫ぶ。それに気付き、和希も振り返る。
「アハ、アハハハハ!やっと死んだか!まったく手こずらせやがって!」
気を失った樹生を見て、腹から笑い飛ばす。そんな和希を外道を見る目で三人は見る。特にアナは、仇のように和希を憎しみの目で見る。
「この外道!人を殺して、なぜ笑える!」
和希の行動に憤りを感じ、思ったことを叫ぶ。それに対し、何事もないかのように言い返す。
「外道ぅ?はっ、これから死ぬ君たちに何を言われようとも何も響かないね。これこそ、勝てば正義ってやつだ。」
「...クズが!」
「なんとでも言え。」
和希はいくら罵られようとも、特に何も感じていなかった。自分がこれから奴らを殺せると本当に信じているようだった。樹生を殺したことにより、より確信したらしい。
「すぐにお前たちを殺してもいいが、まずは死人の顔を拝むとするか。」
その余裕からか、すぐには手を出さず、死体の方に意識が向いた。一回の勝利でここまで浮かれるものかと、エヴィラは半分呆れかえった顔をしていた。
「『その死体をこちらに近付けろ』。」
和希は木に命令を出す。しかし、目の前の木はピクリとも動きはせず、先程と同じ状態で静止していた。操作がうまくいかなかったことに疑問を持ちながら、もう一度命令を出す。
「...?『そいつをこっちに近付けろ』。」
再度命令するが、木はまったく動かなかった。いくら待っても動かないため、しびれを切らし、声を荒げながら何度も命令する。
「おいっ!『そいつを近付けろ』!『拘束を解け』!『顔を見せろ』!」
しかし、いくら命令しても木は一切動かなかった。和希の頭の中は怒りと疑問で入り乱れている。
「どういうことだ。何で動かない?」
「ククク。」
困惑している和希を見て、エヴィラは静かに笑う。和希は振り返りながら睨む。
「...何がおかしい。」
「クク、いや、別に。ただ、あそこまで調子に乗っていたのになと思っただけだ。」
「あ?」
「自分の力をうまく扱えていないどころか、詰めが甘い。あそこまでの態度からのこの体たらくだ。笑わないほうが難しいよ。」
「何だと!...待て、詰めが甘いって。」
和希は、エヴィラの言葉であることに気付き後ろを振り向く。するとそこには、いつのまにか顔の拘束が解かれ、顔を上げていた樹生がいた。
「なぜ…なぜ生きている!」
和希は問う。しかし、それに対して樹生は一切答えなかった。ただじっと和希を見ていた。何も答えないことに苛立ちを覚えたのか、和希は再度攻撃する。
「くそっ、だんまりか。だったらまた殺すまでだ!」
和希は地面から二本の枝を生やし、樹生に向かって攻撃する。しかし、その枝が樹生に触れた直後、その動きを止めてしまった。
「あれ?なぜ動かない。『動け』!『殺せ』!」
和樹がいくら命令しようとも、枝は一切動かなかった。
「何で!何で動かない!」
納得がいかない事象に頭を抱え、叫ぶ。わからない。そのことが彼を不安にさせる。
そんな和希を傍目に、樹生が口を開く。
「『退け』。」
たった一言。その一言だけで、目の前にあった枝を全て退け、体の拘束が解けた。 地面に着地しても、彼はただ和希を見ていた。そのことに和希は苛立つ。
「何見てるんだよ。バカにしてるのか!」
しかし、樹生は何も言わない。もはや何を考えているかわからない様子に、恐怖さえ感じさせる。
和希は樹生に対処できないと感じ、三人に意識を向ける。
「だったら、お前らから殺してやる!『はち切れるくらい締め付けろ』!」
だが、こちらも一切動かなかった。
「何でだよ!何でこっちも!」
「俺が支配したからだ。」
和樹の後ろで樹生が言葉を発する。理解できないことを聞いた和希は、怒りの表情と懐疑的な視線で樹生を見る。
「そういうことだ?」
「言葉の通りだ。俺も詳しくはわからないが、間違いなく俺の方に操作権が移った感覚があった。」
「そんなのありかよ…。」
樹生は感じたものを淡々と答えた。あまりの理解のできなさに、和希は呆気に取られ、落胆してしまう。
「だったら、だったら!支配権を奪われる前に、お前を殺してやる!『あいつを殺せ』!」
遂に自棄になった和希は、植物を操作し樹生に攻撃する。その植物はどれも鋭利な枝で、和希の殺意が伝わる。しかし、樹生はそれに対し、何もしてこなかった。余裕か諦めか、腕を広げた状態で静止していた。
「何もしてこないか!なら、そのまま死ねぇぇぇ!」
枝が樹生に迫ってくる。それでも彼は、動かなかった。枝はもう目の前だ。和希は、勝利を確信した。
しかし、枝が樹生の体を貫くことはなかった。巨大なものがそれを拒んだ。
「何だ、それは…。壁?」
壁と錯視するほどの巨大なものは、木の幹だった。樹生の前から木が生え、それが螺旋状に上空へと伸びていく。
「木?これが、本当に…木?」
しかし、それをただの巨大な木として見るには、あまりにも歪な形をしていた。枝は腕のようにうねり、枝先は爪のように鋭利。次第に、視界が暗くなり、空が隠される程に大きくなっていることが分かる。暗くなったことにより、和希は上空を恐る恐る見上げる。
「…っな!?」
そこにあったのは龍だった。
あまりの迫力、そして威圧感に和希は腰を抜かしてしまう。開いた口も塞がらない。
「な、なんだよ、これ…。」
しかし、成長が止まることはなく、その姿形をどんどん大きくさせていく。
いつしか、根元の樹生の姿が見えるようになった。樹生は口を開く。
「この戦いで、お前からいろいろと学ばせてもらったよ。特に、形の改変…まあ、遺伝子操作かな?それについては、本当に俺の利益になったよ。」
樹生は和希に語りかける。開いた口からは言葉を一つも発せられなかった。徐々に語気が強まり、樹生自身にも威圧感が出る。
「だから…この力を…、最強を形作り…お前にぶつけてやるよ!」
両手の爪を立てる。それは龍の手の如く。そして両手を重ねる。それは龍の牙の如く。
「『目指すは最高…望むは最強…!」
「ヒィ!」
両腕に血管が浮かび上がり、目が血走る。その姿に、もはや恐怖すら覚えるだろう。
「天を裂くほどに…大樹よ…翔けろ!』」
ゴゴゴゴゴゴ…
轟音とともに、その巨大な体が蠢く。その目が和希を捕らえて離さない。和希は足が震え、逃げようにも逃げられなかった。
「あ、あぁ…。」
「覚悟は出来てるか?今更、後悔するなよ。」
重ねた両手を前に突き出し、樹生は叫ぶ。天まで届く、強く、大きな声で。
「『―リュウノアギト―』!!!」
龍はその大きな口を開け、獲物を捉える。次の瞬間、その巨体からは想像もつかない速度で、和希に襲い掛かる。
「ヒッ、いやぁぁぁ!」
和希は恐怖のあまり、龍に背を向け逃げようとする。しかし、龍は逃げることを許さなかった。
その顎は、和希の真上から一気に落ちてくる。和希は、逃げる間もなく龍に食われた。それだけでなく、龍は地面を引きずりながら相手をすり潰し、嚙み砕く。縦横無尽に動く龍は木を薙ぎ倒し、地面から砂塵を巻き起こす。
しばらくすると、龍の動きが止まる。それと同時に、樹生も腕をだらんと下げた。
「あー、流石に疲れたな。」
戦いは、一瞬にして決着がついた。
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