第41話 意識と拘束欲

「フッハハハッ!」


 和希は腕を押しのけ、笑い飛ばす。


「見ろよこの無様な姿を!君のお仲間はこーんなにも弱く、あっけない存在達何だよ。」


振り向きながら腕を広げ、つかまっている三人をバカにする。仲間を馬鹿にされたことにより、樹生は顔をしかめる。


「おい、まさか怒っているのか?お仲間が弱いという事実を突きつけられて、イラついているのか?ハー!だとしたら傑作だ!弱いと分かっていながら、彼らと行動していた。つまり、君もバカってことだ。同じレベルの知能指数だから、共に行動できたわけだ。僕だったら、そんなの耐えられないよ!」


 和希は間髪入れずに樹生を煽る。顔をゆがめているのが見えていたため、さらにストレスを与えるためだ。だからといって、この行為に何か意味があるわけではない。意味なく煽り散らかしているだけだ。

 とうとうしびれを切らした樹生は、怒りのまま言い返した。


「さっきから黙っていれば好き放題言いやがって!てめえ、何様のつもりだ!」

「何様ぁ?そうだな〜。あえて言うなら強者様…うーん語呂が悪いな。」


 樹生が怒りをあらわにしたとしても、和希の態度は変わらなかった。自分が圧倒的に優位な立場にいると思い込み、調子に乗っている態度を改めなかった。否、改める必要もないのかもしれない。


「まあ、そんなことはどうでもいっか。僕が圧倒的な強者であり、君たちを負かすことができるという事実がそこにあればいいからね。」


そう言いながら不敵に笑う。しかし樹生の頭の中は、未だ怒りで埋め尽くされており、その怪しげな笑みに対して思考が回らなかった。


「そんないつまでも怒ってないで。ずっと怒っていると、いつの間にか足元掬われちゃうよ?」


 和希がそう発言したとたん、樹生は腹に衝撃を感じた。


「ッ!グフッ」


強く締め付けられ、引っ張られるような感覚だ。腹を見てみると、いつの間にか木が巻きついていたのであった。いや、巻きつくにしては少々歪で、おかしな形をしている。


―何だ、この木?!まるでな…


「まるで、手みたい…そう、思ったね?」

「…!」


 自分が考えていたことと同じことを発言する和希に、樹生は驚きを隠せなかった。


「おや、驚いたね?ってことは、合ってる訳だ。いやぁほんと、君は考えていることが分かりやすいな。」


樹生は腹の衝撃に耐えながらも、何とか声をふり絞る。


「一体…どんな、方法...だ。手の…形をした…植物なんて…き、聞いたこともないぞ。」

「それはそうだろ。そんな植物、この世界にもないよ。」

「じゃあ…一体…どうやって。」

「はぁ、想像力が足りないね。ま、どうせ死ぬし、冥途の土産に教えてやるよ。

 これは、植物操作のちょっとした応用。いや、応用と呼べるほど難しいわけじゃないけどね。いわゆる、形状変化ってやつだ。僕たちは、植物を意のままに操る力を持っている。それは何も、植物を無理やり成長させて動かすだけじゃない。形、種類、味、果てには毒とかも操作できるんだ。文字通り、植物のすべてを操作できるんだ。」


 和希は余裕そうな顔で、手の形をした木のからくりを教えた。その余裕さは、まるで自分が負けないという自信を感じさせるほどだ。


「君のお仲間についても、植物の力を使って捕らえたよ。いやぁ、ほんとに簡単だった。ちょっと土の中にもぐったり、周りの木に紛れたりするだけで簡単に捕まえることができるんだもん。アハハ!ほんとに弱いよね~。」

「黙れ!そんなせこい方法でしか捕まえられない臆病者が、俺の仲間をバカにするな!…ムグッ!」

「…お前こそ、黙れよ。」


 和希の煽りに樹生が言い返すと、前から手の形をした木によって口が押えられる。和希も同様に腕を突き出し、まるで相手の口を押さえるかのようなポーズをとっている。


「はぁ、気が変わったわ。お前から殺してやる。『そいつをそのまま窒息させろ』。」


 その言葉と共に、口を押さえる木の力が強くなる。樹生は何とか脱出しようと身をよじるが、体を動かすたびに締め付ける力が強くなり動けなくなってしまう。


「ムグッ、ムグゥ!」

「えっ?なんて言ってるかわからないなぁ。アハハ!」


樹生の抵抗できていない姿を滑稽に思ったのか、先程よりも語気を強め嘲笑う。


「人を散々煽っておきながら、自分が煽られたらすぐに手を出すとは。君の方が哀れで滑稽な存在だな。」

「黙れ!よし、決めた!次はお前を殺してやる!そこで怯えて待っているんだな!」


 後ろでエヴィラが煽り出す。表情は若干苦しそうだが、何とか余裕を保っているようだ。その煽りを聞いて、和希は憤慨する。

 一方、樹生は危機的状況に陥っていた。顔は青くなり、力も入りづらくなっていた。


ーまずいな、意識が遠くなってきた。息が苦しい。このままだと本当に死んじまう。

 …死んでたまるかよ。あんなやつに殺されてたまるか。

 だが、もう、息が…。


ついに首が下がり、全身の力が抜けていく。樹生は意識を失ってしまった。

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