第39話 消失と恐怖欲
「みんな離れないで!ここからは固まって動こう。」
エヴィラが皆に提案する。それに対して、ほかの三人もすぐさま頷き了承した。
四人は武器を握りしめ、体外に背中を向け、四方を見て警戒する。しかし、何かが襲ってくる気配が一向に来ない。
「…何も、来ない?」
「俺たちの動向をうかがっている可能性がある。」
「止まっていても仕方ない。周りを警戒しながら動こう。」
四人は警戒を解かずに森を進む。森を進むと、先ほどのように死体がまばらに落ちており、不気味さを感じてしまう。しかし、それでも何かが襲ってくることはなかった。
「何も来ないね。」
「もうすでにこの場を離れたか?」
「対象が野生動物だけって可能性もあるな。」
「くそっ、何もわからない以上、簡単に警戒を解けないのがもどかしいぜ。」
相手が何者なのか、何が目的で野生動物を虐殺したのか、何もかもが不明である以上、警戒を簡単に解くことができない。それによって、次第に疲労が出てしまう。
「もう疲れたよ~。」
アナが音を上げてしまう。武器を持つ手を緩め、刀身を下げてしまう。
「おい、警戒を緩めるな。いつ、相手が来るかわからないんだぞ。」
「でも警戒し続けるのは疲れるよ。」
「お前、仮にも軍人志望だろ。こんなので音を上げるなよ。」
確かに、警戒し続けることはかなり疲労が伴う。しかし、危機的状況に陥った場合、そんなことは言ってられないのだ。現に今がその状況なのだから。
「申し訳ないが、警戒を緩めないでくれ。私たち以前に君自身の命のためだ。」
「ほら、エヴィラもそう言ってるんだしさっさと気を引き締めろよ。
…おい、何か反応したらどうだ?」
発した言葉に一切反応を示さないアナに疑問を持ち、グラムは後ろを振り返る。すると、目の前の状況に驚き、二人に伝える。
「お、おい、お前ら。」
「何だ?」
「どうした?」
「こっちを向いてくれ。アナが…。」
「何?」
「何だって?!」
そう言われ二人も振り返る。すると、そこにいるはずのアナがいなくなっていた。
「どういうことだよ。」
「何で、あいつはいなくなっているんだよ。」
「さっきまで会話してたよな?」
「ああ、そのはずだ。」
三人は突然の出来事に困惑する。アナは間違いなく、先程まで会話していたのだ。声も聞こえていたはずだ。しかし、実際にはアナの姿はどこにもないのだ。その事実に、グラムと樹生は恐怖を感じる。
「もしかしてこれ、あの惨状を引き起こした奴がやったんじゃないか?」
樹生はその可能性を言ってみる。それに対し、グラムが青い顔をしながら否定する。
「馬鹿言うなよ。そうだったら、今頃アナは...。」
「わ、悪い。良くない想像だったな。」
グラムの言葉に樹生も考えを改める。しかし、いくら考えを改めようとアナが消えてしまったのは事実。そのことについて意見を求めようと、ずっと黙っているエヴィラに聞く。
「なあ、こういうことってよくあるのか?ほら、この世界特有の現象みたいな。」
「...そんなものあるわけないだろ。自然現象で突然人が消えてたまるか。間違いなく、何者かが彼女を消した。私からはこれしか言えないな。」
エヴィラの言葉に樹生は驚愕し、再び恐怖する。そして先程の可能性が間違っていないのではと考えてしまう。エヴィラはエヴィラで、それを言い終わると再び顎に手を当て黙ってしまう。何か悩んでいる様子だ。樹生は自分を安心させるために、グラムからも専門的な意見を聞こうとする。
「なあ、グラム。お前狩人だろ。狩人的な視点として何か分からないか?
...ってあれ?」
そういいながら、グラムの方を振り向く。すると、そこにいたはずのグラムがいなくなっていた。
再び仲間が消えたことで、樹生はさらなる恐怖を感じる。
「な、なあ、エヴィラ!グラムも、グラムも消えちまったよ!」
原因不明のこの状況に対処できるすべを持ち合わせていない樹生は、ただただ、恐怖に苛まれるだけだった。
「なあ、何か言ってくれよ!さっきから一体何を考えてるんだよ!」
樹生は唯一残ったエヴィラにすがる。しかし、エヴィラは樹生に構うことはなく、ただ考え事を続けていた。
―先程から探知を続けているが、魔法が使われた形跡はなかった。だとすると聖法が使われたと考えるのが妥当だが...、逆説探知を使っても聖法の痕跡はなかった。ならば一体どうやって?
エヴィラは樹生の声が聞こえないくらいに考え事に浸ってしまっている。樹生は自分の言葉が届かないと感じ、周りをきょろきょろと見渡す。次は自分かもしれない、そう考え短剣を再び構えだす。
―魔法でも聖法でもない特殊な能力...まさか!
樹生は短剣を構えたまま固まっている。やはり、恐怖で体が動かないのだ。正体不明の敵に仲間が次々に消されていってる。はっきりと目の前に敵がいるよりも怖いのだ。
待てど暮らせど敵が来る様子はない。樹生は再びエヴィラに意見を聞こうとする。
「なあ、やっぱりこれって何かの現象なんじゃないか?もしくはそういう生物がいる、と、か...ッ!」
エヴィラの方を振り向くと、その姿はどこにもなかった。ついにエヴィラさえも消されてしまったのだ。
「う、うわぁぁぁ!」
あまりの恐怖に走り出してしまう。逃げるように、隠れるように、生き延びるために。あるところで立ち止まってしまう。単純に疲れ、木に手をつく。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
―だめだ。エヴィラが太刀打ちできないんじゃ、もう終わりだ。
樹生はエヴィラさえもが消えてしまったことに絶望していた。この旅で、エヴィラの強さをまじかで見ており、無意識に信頼を置いていたのだ。しかし、そんなエヴィラが消えてしまった。樹生は恐怖と絶望の渦の中で混乱していた。
「...。」
―いや、
だが、樹生はそこで終わらなかった。
―何も終わってない。まだ生きているじゃないか。
樹生は頭の中で自分を励ました。
―今までだって、死にそうな状況になってもなんだかんだ生き残ったじゃないか。
樹生は自分を奮い立たせた。
―まだ、対抗できる。まだ、立ち向かえる。俺には力がある!
自分の手を見て、握りしめる。
—終わりじゃない。絶対に生き残ってやる!
そうして、樹生は顔を上げる。そこに絶望に染まった情けない顔はなく、覚悟を決めた顔があった。
その直後、樹生は何かに気づき、振り返りながら一歩下がる。すると、目の前に植物が迫っていたのだ。
「...!」
咄嗟の出来事に、短剣を突き出す手が遅れる。しかし、別の植物がそれを防ぐ。
「危なかった...。」
どうやら、無意識的に動かしていたようだ。
しかし、植物の猛攻は続く。それを、植物の力を使って、何とか防ぎきる。
「なんで、植物が襲ってきて...まさか!」
樹生はとある可能性にたどり着く。それは、エヴィラも考えた可能性。
―だが、そんなことができるのか?
しかし、その可能性に疑問を持つ。だが、いくら考えようとも、その可能性にしか辿り着かず、樹生はもはや深く考えるのをあきらめた。
「考えても仕方ない!今は、こいつに対処しなきゃ。」
樹生は目の前の植物の方に集中する。考え事をしているうちに、目の前の植物の本数が二本に増えていた。相手の勢いは増すばかりで、刃を挟む隙すら与えてもらえない。こちらも植物で対抗するしかないようだ。
しばらくすると、相手の勢いがなくなってくる。疲れたのだろうか、次第に威力も落ちていっている。それをチャンスだととらえ、一気に攻めようとする。しかし、攻撃は空振ってしまう。相手は、森の奥へ消えてしまった。
「な、何だったんだ?」
突然のことに惚けてしまう。しかし、惚けている場合ではない。あの植物が何かしらのカギになることは明白だった。樹生は急いで植物が消えた方向に走る。
走っていると、目の前から歩いてくる一人の人間が現れる。
「いやあ、さすがだね。伊達に、あの実験に耐えた人間じゃないね。」
こちらに近づく人間を警戒し、武器を取り出し構える。
「おいおい、そんな意味のない武器を持つなよ。君の場合、もっといい武器があるだろ。」
「おい!お前は誰だ!」
樹生は目の前の人間に対して叫ぶ。目の前の人間は歩みを止めずに語る。
「おや?分からないのかい?一回会ったじゃないか。何なら、自己紹介もした。僕はもちろん君のことを覚えているよ。」
―一回会った?
樹生はその言葉に疑問を持つ。よく考えると、確かに一度、聞いたことのある声だと気づく。しかし、聞いたことあるような声であって、完全に思い出せはしない。目の前の人間は、返答が返ってこないことにイラついたのか、自ら正体を見せる。
「はあ、思い出せないか...。ならいいだろう。もう一度教えてやるよ。」
ついに、その姿が明るみになり、全体が見えるようになった。
「僕の名前は『
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