第四章 欲に従うか抗うか
第38話 森の中の疑念欲
木々が生い茂る森の中、四人は歩いていた。
「なあ、今どこに向かっているんだ?」
グラムがそんなことを聞いてきた。確かに、他二人には共有されていたが、急遽仲間になったグラムにはしっかりと説明をしていなかった。その事実に気づき、エヴィラが説明を始める。
「そういえば、君には説明がまだだったな。
現在、私たちが向かっているのは『フラーク鉱山』だ。」
「フラーク鉱山って、『
「おっ、知っていたか。」
「まあ、有名だからな。」
グラムは名前を挙げただけで見当がついたようで、通称である『割れ山』という名前を出した。フラーク鉱山とは、一つの山がぱっかりと割れたように谷ができている山で、その外見から『割れ山』と呼ばれるようになった。しかし、グラムはフラーク鉱山について疑問に思うことがあるようで、首をかしげながら聞いてきた。
「あれ、あそこは立ち入り禁止じゃなかったか?」
そう、フラーク鉱山は現在立ち入り禁止である。かつては、その奇怪な地形から観光名所として有名だったが、原因不明の事故や付近での行方不明者が多発したため、立ち入り禁止となってしまった。エヴィラは何でもないような顔でそれについて答えた。
「ああ、それについては大丈夫だよ。」
「本当か?」
「策があるし、最悪の場合の手段も持ち合わせている。」
「ならいいか。」
どうやら、エヴィラにはフラーク鉱山に入る策があるようで、グラムも自身のある口調に納得を示した。
しかし、それが解決すると今度は別のことに疑問を持つようになった。
「じゃあ、なんでこんな森の中を俺たちは歩いてるんだ?フラーク鉱山なら、近くのピックル街まで繋道で行けばいいだろ?」
そう、なぜ森の中を歩いているのか。フラーク鉱山は名所であり、近くのピックル街は金細工士や宝石商などが集まり栄えている。そのため、ピックル街は繋道が通っているのだ。その質問に対しても、エヴィラは簡潔に答えた。
「それは、これが近道だからだよ。」
「はあ?」
返ってきた答えは余りにも見当違いのものだった。およそ、教授を名乗るような人物から発せられる回答とは思わない。
「ほら、直線的に行けばすぐに着くだろう?」
「いや、そうだけど、そうじゃないというか…。」
ーなんで、こんな得意げなんだよ。
エヴィラの様子に呆れてしまう。それについて、樹生たちも口を開く。
「ほんと、こいつって頭良い割に、時々脳筋みたいなこと言い出すよな。」
「最初聴いた時は僕も疑ったよ。示す経路が余りにも真っ直ぐなんだもん。」
樹生たちから出た言葉は、フォローではなくグラムへの共感だった。短い期間だとしても、ある程度一緒にいる彼らでさえ、エヴィラの突拍子もない考えに呆れているのである。樹生が呆れながらも、一応のフォローを入れる。
「まあ、俺たちには繋道を使えない理由があるから。」
「それはどうしてだ?」
「俺とエヴィラはレイノール軍に追われてるんだよ。」
「…!まじか!」
「だから、あんまり目立てないというか、表に出過ぎないほうがいいというか。」
「なるほどな。」
「そうだよな?」
樹生が自分達の置かれている現状を伝える。これを聞き、グラムは先ほどよりも納得している。それについて同意を求めようとエヴィラに聞く。
「…ん?ああ、まあ、そんな感じだ。」
「ほらな。」
「大丈夫か?生返事だったが。」
エヴィラは、生返事で同意した。まるで正しくはないが間違ってもいないかのようだった。
「これも今だけだよ。いつまでもコソコソしていたら、やりたいこともやれないからな。」
このことについて、エヴィラは補足を言う。どうやら、いつかは堂々と繋道を歩ける日が来るかのような言い方だった。
一連のことにグラムが納得してから、しばらく時間が経った。その間、特別何かが起こることはなかった。ビアが襲ってくることも、ガボアが突進してくることも、コーディが目の前を横切ることもなかった。そう、何もなかったのである。そのことについて疑問に思った樹生が口に出す。
「なあ、こんなにも何もないことあるか?」
「何もないって?」
アナはその疑問を聞き返す。どうやら、アナは何も思っていないようだ。
「ここまで一切野生動物と会ってないことだよ。おかしくないか?」
樹生は疑問の内容を話す。樹生は感覚的に野生動物に会っていないことに違和感を覚えたらしい。
「んー、そういう時もあるんじゃないの?」
「まあ、たまたま会わなかっただけかもしれないが…。」
アナの言葉に樹生は言い淀んでしまう。確かに、偶然会わなかったという可能性は全然あるのだ。しかし、それに対して違和感を感じているのは樹生だけではなかった。
「いや、君が言いたいことはよくわかる。確かに、ここまで何とも会わないのは少々違和感を覚える。」
エヴィラも同様に違和感を感じていたようで、樹生の意見をフォローする。ただ、二人とも違和感を感じているだけで、何か異変が起こったわけではないので、何もできないのが現状である。
そのように、違和感を感じながら慎重に森の中を進む。いくら進もうと、野生動物が出る気配は一向に来ない。違和感による疑念はどんどん膨れ上がるばかりだ。すると、グラムが何かに気づく。
「スンスン。みんな止まってくれ。」
「うおっ、どうした?」
「何かあった?」
「臭いがする。しかも、この臭いは…腐敗臭だ。」
「「「…!」」」
グラムが謎の腐敗臭に気づいたのだ。それにより四人は周りを警戒し、武器を取り出す。慎重に進むと、その腐敗臭の正体があった。
「なっ!」
「これは。」
「ヒッ」
「…ふざけやがって。」
四人の目の前には野生動物の死体がいくつもあった。死体は無造作にそこらに散らばっており、見つけ次第殺されたことが推測できる。殺され方も複数あり、胴体部分を締め付けられたり、腹の大部分を貫かれたりなど、その惨状は余りにも酷かった。
目の前の光景を見て、違和感が確信へと変わる。そして、とある思考に結びつく。この森には、この惨状を生み出せる存在がいる。
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