第32話 甘い香りを追跡欲

 四人の目の前には、胸に模様のあるビアがのそのそと歩いていた。グラムは、急いでアナの口を塞ぐ。


「馬鹿野郎!大声を出すな!あいつが気づいたらどうする!」


 グラムは、大声を出したアナを叱る。自分の失態に気づいたアナは申し訳なさそうな顔をする。

 ビアを観察すると、こちらには振り向かずにのそのそと歩き続けている。どうやら、アナの声には気づいていないようだ。それがわかると、グラムはアナの口を塞いでいた手を退ける。解放されたアナは、グラムの方を振り向き謝る。


「すみませんでした。迷惑をかけてしまって…。」


それに対して、優しく答える。


「まあ、いいさ。今回は無事だったからな。ただし、自然は危険だ。一瞬の気の緩みや間違いで命を落とすからな。次は気をつけろよ。」

「はい!」

「シー!」

「ハッ!」


急いで自分の口を塞ぐ。行動の節々に真面目さが見えるため、あまり強く言えないグラムなのであった。


「おい、何をしている。」


 二人がワチャワチャしていると、いつのまにか前に進んでいたエヴィラが口を開く。


「急いであいつを追うぞ。」


そういいながら、手で早く来いとジェスチャーを送る。三人は急いでついて行く。


「追うって、まさかあのビアを追いかけるのか?」

「ああ、そうだ。」

「なんでビアを?」


樹生はエヴィラの行動に疑問を持つ。


「なんでって、あのビアがオールネビアだからだ。」

「オールネビア?」


新たに出てきた名前に樹生は困惑する。


「オールネビアは他のビアと違って、温厚な性格でな。争いを好まない習性をもつ。」

「へー。…ん?それがなんで追いかける理由に?」

「重要なのはそこじゃない。重要なのは、オールねビアの好物だ。」

「好物…。」

「そう。オールネビアは甘いものを好んで食べるんだ。それ故か、味覚嗅覚共に甘さに敏感なんだよ。」

「…!そういうことか。」

「フッ、理解できたか。」


オールネビアの特徴を聞き、樹生は勘付く。エヴィラはあえて説明を続ける。


「その特徴を使えば、蜂蜜を嗅ぎ分け、それがある巣まで行くのは容易いということだよ。」

「なるほど〜。」


エヴィラの説明で、樹生は完全に理解する。

 その後、四人はビアに気づかれないように後をつけている。すると、グラムがある事に気付く。


「…ッハ!」

「どうした?」

「匂いが、甘い匂いがする。」

「本当か!」

「仄かにだが、間違いなくあっちから香ってきてる。」


そう言いながらビアが進む先を指差す。


「ということは!」

「ああ間違いない。ビアの行先にケーバルブーの巣がある。」


 そして、ついに、


「ビアが穴の中に入っていったな。」

「匂いの方はどうだ?」

「かなり濃い匂いだ。お前らでも嗅げるんじゃないかってくらいに濃い。」

「なら間違い無いな。あそこが、ケーバルブーの巣だ。」


オールネビアを追跡することによって、ケーバルブーの巣を発見することに成功した。

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