第27話 天使の都で散歩欲

 『首都アーケルディア』、ウーロンド王国の首都であり、世界最高峰の裁判所が存在する。世界各地のあらゆる極悪犯罪者は最終的にここの裁判所に辿り着くとされており、国境を越えてさまざまな犯罪者を裁くことのできる世界で唯一の裁判所である。

 樹生達が乗っている車は、『エリシオホテル』の前に止まり、樹生とエヴィラはそこで降りる。


「ここまで運んでくれてありがとう。本当に助かったよ。」

「ありがとうございます。」

「気にしないでくださいよ。こちらこそ、アナをありがとうございます。」

「ありがとうございます!」

「ああ、今回君はよくやったからね。たっぷり休むんだよ。」

「はい!」


 窓を介してお互いに感謝を述べ合う。


「では、私はこのまま訓練校に戻ります。何かありましたらこちらまで連絡してください。」

「さようなら~。」


ライジが名刺のようなものを渡した後に車は走り出す。樹生は走り去る車に向かって手を振る。車が見えなくなったころ、二人はようやくホテルに入る。


 次の日の朝、ホテルのテレビでは先日のワイガー逮捕や最近流行のスイーツなどさまざまなニュースが報道されていた。


ーこの世界にもテレビってあるんだ。


 樹生はこの世界の技術の発展具合に唖然としている。エヴィラはというと、窓際でコーヒーを片手に本を読んでいる。

 樹生はリモコンで他のチャンネルに変える。他のチャンネルでは同じようなニュース番組がやっていたり、子供向けのアニメなども放送されていた。


ーマジで普通のテレビだな。トイレも風呂も元の世界と変わらない。なんか夢ねえな。


 そんな樹生の様子を見て、エヴィラが声をかける。


「どうした?テレビ飽きたか?」

「うぇ?!あぁ、まぁそんなところかな。」

「なら、散歩でもしてくればいい。ほら、お金渡すから。」


 そう言うと、ポケットから財布を取り出し、お札を5枚ほど取って渡す。


「500ジンくらいあれば、昼ご飯含めて、結構遊べるだろ。余ったら自分のお小遣いにしていいぞ。私は、今日はこのホテルから出るつもりはないから、困ったら戻ってくるといい。」

「ああ、ありがとう。」


樹生はお礼を言いながらお金を受け取る。エヴィラの提案を心の中で承諾し、出かける準備をする。


「じゃあ、行ってくるな。」

「ああ、暗くなる前に戻れよ。後、街から出るなよ。」

「はーい。」


そう返事をしながら外に出かける。エヴィラは扉が閉まったのを確認し、再び本に目を移した。

 街に繰り出した樹生は、歩きながらその街並みに驚いていた。


ーイギリスみたいな街並みだな!異世界だから中世ヨーロッパ風をイメージしてたけど。電化製品もあるし、車や銃だってある。異世界って、想像よりもしっかり技術が進んでるんだなぁ。


アーケルディアの街並みは、現代のロンドンのような街並みで、道路には車が往来しており、路面電車なんかも走っている。

 樹生は、歩きながら気になった店に入り、適当に店内を見て歩く。そんな事を繰り返すが、結局何も買わずにいた。時間もそろそろ昼に差し掛かり、樹生は露店で歩きながら食べれるようなものを選び、買う。


ー…うまいな、このクレープ。たしか、ローパルとか言う名前だっけ?


名前を思い出しながら、午前と同じように街を歩く。

 しばらく歩いていると、声をかけてくる人物が現れる。


「樹生さーん!」


声がする方を振り向くと、そこにはアナとライジがいた。


「アナとライジさん!こんにちは。」

「こんにちは樹生くん。」

「今、何をしてたんですか?」

「今はパトロール中でね。ついでに、アナに昨日までのことについて聞いていたんだよ。」


 その後は、流れで話しながら歩く。ライジは樹生に対しても、あの事件のことを聞き、樹生は大まかに伝えた。


「ふむ、ふむ、なるほどな。ありがとう。やはり、2人以上の視点があると、より事件に具体性が増すな。これで、報告書を書くのがある程度楽になったよ。」

「えぇ!そんな理由で僕たちに聞いてきたんですか?!」

「そんな理由って、報告書だって必要な事だ。お前も、明日から事件についての報告書書いてもらうからな。」

「えー!そんなぁ。」

「教えてやるから、そう落ち込むな。」


 アナのあからさまに落ち込んでいる様子を見て、樹生は頬を緩める。


ー微笑ましいな。先生と生徒みたいで。…いや、実際にそうなのか。


 そんな思いに耽っていた頃、突然アナが樹生に話を振る。


「そういえば、樹生さんにお願いしたいことがあるのですが…。」

「ん?お願いしたい事?」


その言葉に疑問が浮かぶ。樹生は自分が何かしたかなど、少々不安になっているようだ。対するアナは深呼吸をして、覚悟を決めたような顔をする。


「僕を旅に連れて行かせてください!」

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