第26話 事件解決と安堵欲
あれから一夜が経った。屋敷の扉を叩く音が響く。どうやら、ライジが来たようだ。アナが玄関から迎える。
「隊長!お疲れ様です。」
アナは敬礼しながら挨拶する。ライジも敬礼を返す。
「お疲れ様。どうだ?どこまで進んだ?」
「ワイガーの捕縛に成功しました!」
「本当か?!」
ライジはアナの言葉に驚く。
「はい!詳しくは中でエヴィラさんから説明があります。」
ライジ含めた軍人十人程が、屋敷の中に入る。アナの案内の元、廊下を進み、大広間にたどり着く。
大広間の扉を開くと、そこには30人ほどの子供と従業員が和気藹々と床に座りながら食事をしていた。その中には、エヴィラと樹生もいた。
「こ、これは、いったい?」
「お、やっと来たか。」
ライジは中の光景に呆気にとられていた。どうやら、他の隊員も同じようだ。そんな中、エヴィラがライジ達に気付き、声をかける。
「翌日とは聞いていたが、まさか昼になるとはな。サボっていたわけじゃないよな?」
エヴィラは茶化しながら近寄る。ライジは正気を取り戻し、反論する。
「サボるわけないですよ。ただ、人を集めるのに少々苦労しましたが…。」
「ハハハ、冗談さ。むしろ、この短時間でよく人を集めたものだ。」
エヴィラはそう笑いながら、肩を叩く。ライジは少々不服そうだ。他の隊員は未だに困惑している。それに気づいたエヴィラは話題を変える。
「ああ、ここで雑談してる場合じゃないよな。入りたまえ。中で説明するよ。あぁ、アナ、ここまでの案内ありがとう。」
「はい!」
アナは返事をすると、部屋の中に入り子供達の輪の中に混ざる。
次に、エヴィラが部屋に入ることを促す。ライジ達は恐る恐る部屋に入る。部屋の中は実験器具のようなものが壁にかかっているが、中央には特にものは置いてなくがらんとしていた。その中央に皆は集まっている。
エヴィラが案内する場所は、その中央ではなく、とある隅の方だった。そこには、縛り上げられているワイガーがいた。
「こ、これは?」
「ん?あぁ、ワイガーだ。見ての通り縛り上げられている。」
「そんなこと見ればわかります。そうではなくて、何故彼がこのように縛られているのかということを聞いているんです。」
「はは、そんな怒るなよ。それも含めて今から説明するから。」
そう言うと、ワイガーを背もたれにし、座り込む。それに倣って、ライジ達も床に座る。そして、エヴィラは語りだす。
結論から言うと、今回の事件の犯人はワイガー・セレバだった。彼は、4年前に己の性欲を満たすために、森で迷子になっている村の子供を見つけ、催眠装置を使い屋敷に招き入れ、子供を性欲のはけ口にしてきた。誘拐がうまくいったことから、それ以降も子供をさらっては催眠漬けにして性欲のはけ口にするのを繰り返していた。村が統治下にあることから、警察は自分の発言で動かすことができ、最悪の場合催眠すればいいので、この事件はなかなか解決にたどり着かなかったとか。催眠していたのは子供や警察だけでなく、屋敷で働いている従業員に対しても行っていたらしい。こうして、周りを固めていったことによって検挙されるまでには至らなかったらしい。
「なるほど、そんなことが。」
「さすがに、村の人々の不信感までは拭いきれなかったらいいがな。まあ、催眠の限界だよな。」
「そういえば、説明の中で出てきた催眠装置というものが気になるのだが、それはどこにあるんだ?」
ワイガーは、説明の中で出てきたものについて疑問をぶつけた。それに対して、エヴィラは何でもないように答えた。
「ああ、催眠装置は壊したよ。」
「「ええ?!」」
エヴィラの返答にライジ含めた隊員全員が驚く。
「まずいですよ隊長、説明を聞く限りそれが最も有力な証拠ですのに!」
「それがないと、裁判にかけられないのでは!」
「何をしているんですかあなたは!」
「皆落ち着きたまえ!あと、私を隊長と呼ぶな!」
取り乱す隊員を何とか抑える。ライジ自身も落ち着くために深呼吸をする。
「それで、なぜ装置を壊したんですか?壊すほどの理由があったのですか?」
「いや、なんかムカついたから。」
ライジの重々しい空気をものともせず、あっけらかんと返答した。ライジたちは、その返答を聞いて頭を抱える。そんな困った様子のライジたちに対して、エヴィラは笑いながら言葉を続ける。
「まあ、安心したまえ。壊したとはいえ、それがないとは言ってないから。」
そういいながら懐から壊れた機械を取り出す。これが催眠装置なのだろう。催眠装置がライジの手に渡る。
「ふむ、なるほど、わかりました。これは証拠として預かっておきます。問題はないですよね?」
「ああ、壊した私が言うのもあれだが、問題はないさ。それを持っていたところで仕方がないからね。」
「ありがとうございます。」
そうして、催眠装置は適切に袋にしまわれる。
その後、隊員達の手によって子供達は無事に保護され、それぞれの親元へと帰っていく。樹生たちは、当初の目的であるコート・トロンをトリスのもとへ送り届ける。村の前にはトリスが待っており、その姿が見えるとコートが走り出す。それに気づいたトリスも駆け寄り、2人は抱きしめ合う。
「ママ!」
「コート!」
「ママ!ママ!」
「無事で、無事でよかった!」
2人は涙を流しながら強く抱きしめ合う。
「軍人さん本当にありがとうございます。」
「いえ、当然のことをしたまでです!」
「ほら、あなたもお礼を言うのよ。」
「天使のおねーさん、ありがとう!」
2人はアナに感謝を述べる。アナはその感謝を受け取りながら、笑顔で言葉を返す。
2人に別れを告げた後、4人は車に乗る。車の中でエヴィラは、何やら考え事をしている。
ーあの催眠装置に描かれていたマークは間違いなく『モーラン研究所』のものだった。あのエピロトビアも遺伝子操作によって生まれた個体。あの時の転移装置といい、人間の技術の域を越えていないか?…今後、それについても気をつけていかないとな。
村を離れてから数時間後、ついに大きな街並みが見えてくる。
「もしかしてあれが。」
「ああ、間違いない。あれこそがウーロンド王国の首都『アーケルディア』だ。」
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