第25話 致命に向かう弾飛欲
エピロトビアに吹っ飛ばされた後、樹生は壁にぶつかり沈んでいた。直接攻撃を受けた左腕からは血が流れ、壁にぶつかったことによる打撲痕もできていた。
「…ッグ」
―クソッ、痛いな。気絶しなかっただけましか、いやこの痛みを感じるくらいなら気絶した方がましか。
樹生は壁に寄りかかりながらも、何とか気絶せずに意識を保っていた。
―だが、あの時に比べれば、どれもましに思えるな。
痛みを感じながら、エピロト遺跡での出来事を思い出していた。といっても、今の傷もエピロト遺跡でのやつに引けを取らない傷ではあるのだが。
しかし、そんなことを考えられるほど彼は冷静ではない。傷を負ったことによって、痛みに思考が遮られてしまっている。
―痛すぎる。本当に何も考えたくねえな。
それでも、視線はビアを捉えて離さなかった。むしろ、ビア以外は視界に入っていないかのようだった。
―あいつが俺に攻撃を…。
あいつは、俺の生の道を邪魔する、障害物。障害物は、どんな方法を使ってでも、取り除かないとな…。
樹生はいつの間にか立ち上がっていた。それは彼自身でさえも気付いていないようで、もはや無意識的に動いているようだった。そして、彼の周りには植物が生えていた。
―今の俺には力がある。この刃を、あいつに突き刺せば。
短剣を固く握りしめ、腰だめに構える。植物も固く、太く、その幹を成長させている。次第に足元にも生えてくる。
―ただの突進じゃ、ただ突き刺すだけじゃダメだ。確実に殺さないと。
植物はどんどんと大きくなり、しっかりとした構造を持つように成長する。
―なら威力が必要だ。どこまでも強く、速く、何物にも止められない力を、それを加えられるものを。
大きく成長した植物は、植物同士で絡み合い、大きく撓らせていた。撓っている植物は、ギチギチと軋むような音がする。
―標的はあのでかぶつ。奴目掛けて、一気に…
「『弾き飛ばせ』!!」
次の瞬間、絡み合った植物の一部がちぎれ、強く
砲弾のように弾き飛ばされた樹生は、一直線にビアの方向に向かっていく。あまりのスピードに、ビアが気付くよりも早く懐に入る。そして、刃を胸に突き刺す。
ガッ グァァァ
刃が突き刺さり、体がぶつかってもその勢いは止まることを知らず、ビアもろとも吹っ飛んび、壁に激突した。
突き刺した場所が心臓部だったため、血が勢いよく飛び出る。ビアは抵抗するのもままならないくらい悶え苦しみ、死んでいった。
ビアの結末を見たワイガーは、膝から崩れ落ちる。
「ま、まさか、あのエピロトビアが、やられるとは…。」
項垂れているワイガーに、エヴィラが近寄る。
「これでもう打つ手なし…かな?」
そんな質問を投げかけたエヴィラを、彼はにらみつける。
「クソッ、こうなったら!」
ワイガーは再び催眠装置を握りしめ、近づいてきたエヴィラに見せる。それを見たエヴィラは、一時的に止まってしまう。
「クククッ、どうだ…?」
「…くだらん。」
パシッ
しかし、ワイガーには一切効かず、槍で持っていた機械を弾いた。
「えっ…ひぃ。」
対抗手段の一切を取り上げられ、すっかり怯えてしまう。敵わないと感じたワイガーは、エヴィラに背を向けて逃げ出す。
「う、うわぁぁぁ。」
「逃がすか、『拘束―バイデスト―』。」
情けなく逃げていくワイガーの動きが突如止まる。止まったワイガーに歩みを進め、目の前に立つ。
「さて、君にはいくつか聞きたいことがある…が、その前に、真の催眠というものを君に教えてやろう。いいか、この指の先をしっかり見るんだ。」
ワイガーの目の前で人差し指を突き出す。すると、指先が徐々に光り出す。
「”君はこれから先、私に対して嘘をつくことはできない。黙秘で逃げることもできない。抵抗もせず、素直で従順になるしかない。”
『催眠—フェノーシス―』。」
その言葉とともに、ワイガーの目の光がどんどんと失われていく。体からも力が抜け、肩が下がっていく。
エヴィラが指を鳴らすと、拘束が解けたのか床にへたり込む。ワイガーの様子を確認したエヴィラは、アナに向かって、
「アナ、治療の心得はあるか?」
と言う。それに反応した、アナは
「は、はい。授業で習いましたし、応急処置用の医療キットも持っています。」
と、医療キットを取り出しながら言う。それに対して、エヴィラは微笑みながらうなずく。
「よろしい。なら、樹生のことを頼みたい。」
「はい、わかりました。」
アナは医療キットを持って、樹生の方に向かう。樹生のところに近寄ると、ちょうど樹生が起き上がる。
「痛っててて…。」
「あ!樹生さん!大丈夫ですか?」
「この声、アナか?」
「はい!アナ・リエルです!」
アナは、返事をしながら樹生の状況を確認する。頭から血が流れているように見えるが、それはビアの返り血なので、怪我はビアからくらった一撃くらいである。左腕が抉れており、見ているだけで痛々しい。アナは急いで医療キットを広げ、応急処置を始める。
「じっとしててくださいね。」
「おぉ、ありがとな。」
樹生がアナに応急処置を受けている一方、エヴィラはワイガーに向き合っていた。
「では、何から聞こうかね…。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます