第23話 恐怖と対峙欲
「エ、エピロトビア?!」
「何だよこの大きさ。あの時会った奴の倍はあるぞ!?」
二人は、エピロトビアのあまりの大きさに驚き、体が動かなくなってしまった。二人が驚いている間に、ビアは足を動かし、二人に近づき始めた。その一歩はあまりにも大きく、すぐさま二人の目の前まで来てしまった。ビアが腕を振り上げると、二人は正気に戻り体勢を整える。
次の瞬間、腕が振り下ろされる。二人は同じ方向に何とかよけることができた。
「っあぶねぇ。…なあ、エピロトビアってあんなに大きくなるものなのか?」
「いえ、あり得ません!エピロトビアは平均で2m、過去最大の大きさでも3m、と遠征前の授業で習いました。」
「ってことは、この大きさは異常ってことか…。」
目の前のエピロトビアについて、樹生はアナに聞く。4m程のエピロトビアは過去一度も発見されたことはなく、異常な大きさだといえる。一体どのような方法でこれまでの大きさになったのか、彼らは見当もつかなかった。
しかし、そのようなことを考えている暇は、彼らにはない。ビアは二人のほうに向き直り、
グオォォォ!!!
大きな咆哮で威嚇してきた。
二人は武器を取り出し、体勢を整える。
「クソッ、当たってくれよ!」
そして、エピロトビアが二人に向かって走り出す。樹生はけん制として、ナイフを投げる。
グオッ
「よしっ!」
投げたナイフは見事にビアの腕に刺さった。
「…って、えっ?!」
しかし、ビアが立ち止まることはなかった。刺さったナイフにかまうことなくこちらまで近づき、牙を立てて樹生に噛みつこうとする。何とか寸前でよけることが出来たが、体勢を大きく崩してしまう。床に転んでも、ビアは容赦などしなかった。ビアが再び樹生に襲い掛かろうとする。
「たあああ!!!」
アナがビアの横腹を切ることによって、その行動を制止させた。しかし、それによってアナの存在に気付き、アナのほうを振り向いてしまう。
「ヒイッ」
ビアが振り向いた瞬間、アナは悲鳴を上げ、硬直してしまった。今度は、アナの方に向かっていった。ビアが一歩ずつ近づいているのに対して、アナは恐怖のあまり動けず、立ち往生していた。あと一歩となったところで、
「『縛れ』!」
植物がビアの手足を縛った。
アナは、その場にへたり込んでしまう。
「大丈夫か!?」
樹生は心配の声をかけながら、アナのほうに向かっていく。
「あ…え…。」
「怪我はないみたいだな。急に立ち止まったからビックリしたぞ。どうしたんだ?」
「…。」
樹生が見た限りでは、アナに怪我はなかった。しかし、ビアが向かっていったときに動かなかったことに樹生は疑問を持った。アナは、震えた声で、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
「あ、あの時…山の麓で…ビアに遭遇…した時に…傷を負いまして…。あれ以来…怖くて…、傷の場所を見るたびに…あの時のことが思い出されて…。」
アナが語ったのは、ビアに対するトラウマだった。山の麓、つまり、初めてアナと出会った時のことである。確かに、あの時は危機的状況であり、当人のトラウマになってもおかしくはない。さらに、よく見ると腕には、あの時樹生が巻いた包帯が残っている。その包帯を見ながら言った。
「もう痛みは引いてきたんですけど、未だにこの包帯を外せないんです。傷跡がここにあると思うと、本当に怖くて…。」
アナは包帯が巻いてある腕を抱えて、縮こまってしまった。目には涙を浮かべ、剣すら床に落としてしまっている。それを見て、樹生が口を開く。
「そうか、恐怖、トラウマだな。それなら仕方ない…とはならないんだな。」
「えっ?」
樹生の言葉に、アナは頭を上げた。
「別に恐怖を克服する必要はない。だが、逃げていいわけでもない。」
「じゃ、じゃあどうすれば。」
「勝たなくてもいい。超えなくてもいい。だが逃げ続けてはいけない。逃げてばかりではこの先、簡単に死んでしまうからな。」
「…。」
樹生の言葉は、アナの心に妙に残った。彼の、特に生き残るという発言が、不思議と重みを感じたからだ。
「恐怖に対してどれだけ足掻けるか。生き残りたいのであれば少なくとも…ッガ」
「樹生さん!」
突如、樹生は背後から攻撃を受け、吹っ飛ばされてしまう。
「な、何で。さっきまで、縛られていたはずなのに。」
攻撃の正体は、植物で縛られていたはずのビアだった。
「あの程度、あれにとっては足止めにすらならないよ。」
遠くのほうから、ワイガーが話す。
「さっきから聞いていればペチャクチャと、こちらを無視して呑気に話していたな。隙だらけだったら、簡単にしとめることができたよ。」
ワイガーは余裕そうに、そしてイライラしながら話し続ける。
「もう茶番は終いだ。エピロトビア!さっさとそいつも始末しろ!」
ワイガーが命令すると、ビアはアナの方を向き、一歩ずつ近づく。
アナは、床に落ちている剣を拾う。しかし、構えようにも腰が引けていて、まともに戦えるような姿勢ではない。
―恐怖から逃げちゃダメ。逃げたら死んじゃう。でも…やっぱり…!
アナが恐怖で目を瞑ってしまったとき、
ヒュン バリバリッ
ッガ ガァァァァァ
「なっ、誰だ!」
突然、部屋の扉からビアを目掛けて、何かが投げつけられた。ビリビリと電気を帯びたそれは、よく見ると槍だった。扉のほうを皆が向くと、一人の悪魔が立っていた。
「ふぅ、すまない。少々時間がかかってしまった。」
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