第22話 隠蔽された催眠欲

「 これは…。」

「牢屋だな。それに、中にいるのは攫われた子供たちだろうな。」


 部屋は牢屋となっており、攫われたと思われる子供たちが、中に入れられていた。その子供たちは、どこか希望の持てない目をしており、誰も三人に助けを求めていなかった。二人は、この部屋の惨状に驚愕した。


「こんなのって…こんなのって、あまりにもひどすぎます!」

「子供をこんなところに詰めるなんて、人間のやることじゃねえ。」


 三人はそれぞれ、部屋の様子を見る。アナが部屋を見渡すと、目的の人物であるコート・トロンを見つける。


「あの子は!間違いない。あなた、コート・トロン君ですよね。あなたを助けに来ました。」


しかしアナが近寄ると、コートは怯え檻から離れてしまう。


「ど、どうして。」

「完全におびえているな。」

「そんな。」

「どんな仕打ちを受けてきたか、容易に想像できる。」


 二人が狼狽えているなか、エヴィラは冷静にこの状況を判断していた。


「これではっきり分かったな。数年前から起こっていた児童行方不明事件の真相と犯人が。」


「ほう、それはぜひとも教えていただきたいですな。」


 突如、扉のほうから声が聞こえる。三人が一斉に振り向くと、そこに立っていたのは、この屋敷の当主であるワイガー・セレバだった。


「ワイガー…!」

「呼び捨てで呼ぶな小娘。貴様らは自分の立場を分かっているのか?」

「それはこっちのセリフだ!てめえ、今更しらばっくれる気か?」


ワイガーは、その言葉に狼狽えることはなく、頭を抱えるのみ。


「はぁ。温情で逃してやったというのに。戻ってくるどころか、こんなところまで来てしまって。」

「…何が言いたい。お前が犯人だってことは、割れているんだぞ!」


ワイガーは、懐に手を入れながら話し続ける。


「ふっ、そんなこと、貴様らを始末すればいいだけのこと。」


ワイガーが懐から取り出したのは、催眠をかけるための機械。


「あれは!」

「君たち目をふさげ!」

「バカめ。」


 ワイガーは機械のスイッチを押す。すると、機械から奇怪な音が流れ出す。

 しかし、三人は特に催眠にかかることはなかった。恐る恐る目を開けると、


「う…ぁう…」

「ぁあ…」


周りの子供たちが正気を失っていた。


「ふっふっふ、奴らを始末しろ。」


ワイガーがそう言いながら、スイッチで牢屋の扉を開ける。牢屋から催眠を受けた子供たちが、のそりのそりと三人の方に向かっていく。


「は、早く何とかしないと!」

「エヴィラ、前使っていた拘束させる魔法あっただろ。あれ使えないのか?」

「無理だ。あれは、個人を対象としてでしか使えない。複数人は時間がかかる。」

「じゃあどうするんですか?!もう子供たちが襲い掛かりそうですよ!」


二人は焦り、冷静な判断ができなくなっている。エヴィラも、相手が子供ということもあり、なかなか良い策が思いつかないようだ。そうこうしているうちにも子供たちはどんどんにじり寄ってくる。

 次の瞬間、ついに子供たちが襲い掛かる。エヴィラとアナは、咄嗟に防御の姿勢をとる。しかし、樹生だけは違った。


―まずい!

「『押さえつけろ』!」


植物を使い、子供たちを壁に押さえつける。咄嗟だったため、瞬間的に欲が大きくなり植物を操ることが出来た。


「な、なんだそれは!クソッ!」


 目の前で起こったことを理解しきれなかったワイガーは、驚きを隠せず、さらに策が潰れてしまったため、その場から逃走した。


「あ、逃げた。」

「急いで追うぞ!」

「ちょっと待ってください!」


 逃走したワイガーを二人が追おうとすると、アナが引き止めた。


「どうしたんだ。早くしないと見逃すぞ。」

「それはそうなんですけど、子供たちはどうするんですか?!」


 子供たちを見ると、催眠状態が解けないまま植物に縛り付けられており、とても苦しそうに見えてくる。エヴィラは、子供たちを放っておくという非情な選択をとることができなかった。


「っく、分かった。ならば、私が彼らをどうにかしよう。

 君たち二人は、ワイガーを追いかけてくれ。」

「ああ、分かった。」

「分かりました!ありがとうございます!」

「気にするな。さあ急げ!見失う前にな!」

「はい!」

「おい、行くぞ。」


 エヴィラはワイガーのことを二人に託し、自分は子供たちのことに専念し始めた。

 二人は部屋を飛び出し、ワイガーを追いかけた。隠し通路から物置部屋に、そして廊下に出た。樹生は廊下を見渡すと、ワイガーの背を見つけ、そちらを指差す。


「あっちだ!急ぐぞ!」

「はい!」


 二人は、ワイガーを追いかけて走り出す。追いかけられていることに気が付いたワイガーは、コーローウルルクたちに指示を出す。


「くそっ、もう来やがったか。番犬ども!奴らを始末しろ!」


 走る二人の前に、コーローウルルクが集まってくる。しかし、二人は足を止めない。


「武器を取り出せ。このまま突破するぞ。」

「分かりました。」


 アナは剣を鞘から抜く。樹生は懐に手を突っ込む。取り出そうとした瞬間に、ウルルクが襲い掛かる。だが、樹生はそれに怯むことなく、ナイフを取り出し、ウルルク目掛けて投げつける。ナイフは見事にウルルクの眉間に刺さり、ウルルクは床に倒れ込む。アナも足を止めることなく、剣でウルルクを切り伏せる。

 遠くのウルルクを樹生が投げナイフで撃ち落とし、近くまで寄ってきた奴をアナが切り伏せる。それを繰り返していたら、いつの間にか襲い掛かってくるウルルクはいなくなっていた。


「案外、少なかったですね。」

「屋敷の中だからな、多いほうが困る。むしろ、一体でもちゃんと対処できた自分に驚いてるよ。」


 二人は走る速度を緩めながら会話する。そして、とある部屋の前で立ち止まる。その部屋とは、ワイガーが逃げている最中に入っている部屋だ。


「何となく立ち止まったけど、この先に隠し通路とかあったらどうしような。」

「そんなこと言わないでくださいよ。

 ふー。緊張感持っていきましょう。」

「ああ、そうだな。」


 二人は、目の前の扉を勢いよく開けた。


 部屋の中は薄暗く、部屋全体を把握することはできなかった。二人は警戒しながら進んでいく。ちょうど部屋の中央部に来た辺りで、樹生が気付く。


「…?…!見つけたぞ、ワイガー!」


 部屋の奥で佇んでいるワイガーを見つける。ワイガーを見ると、何やらニヤニヤと笑っているようだ。


「ふっふっふ、貴様らが馬鹿正直についてきてくれて助かったよ。」

「何だと?」

「追い詰めましたよ!大人しく罪を認めてください!」


 アナが声高に言う。確かに、状況から見れば、二人がこの部屋でワイガーを追い詰めたことになる。しかし、ワイガーは焦ることもなく、むしろ余裕そうに笑っていた。


「ふっふ、追い詰めただと?違うね、貴様らが追い詰められたんだよ。」

「何を言ってるんだ。」

「そうです、大人しくしてくださいよ。」


 アナが捕まえようとワイガーに近寄る。その瞬間、ワイガーは近くの装置を操作する。


「今にわかるさ。さあ、エピロトビアよ!奴らを踏みつぶしてしまえ!」


 次の瞬間、部屋の電気が付き、部屋の全貌が明らかとなる。そして二人の目の前に立っていたのは、


4の巨大な『エピロトビア』だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る