第21話 隠し部屋に恐怖欲

 屋敷の廊下を三人は駆けてゆく。


バウバウ


その後ろから、狼に似た灰色の毛並みの『コーローウルルク』が追ってくる。

 なぜそのようになったかは、至って単純。


「まさか入った瞬間に追われるなんて。」

「普通に考えて、あんな大きな音を出したらばれるに決まってますよ!」


裏口を開けた時の大きな音によって、巡回していた番犬たちにばれてしまったのだ。


「しかも、何か増えてないですか?!」

「廊下に何匹歩かせてんだよ!」


ただ逃げているだけなので、追ってくる番犬はどんどんと増えていく。このままでは、目的である調査を行うことができない。

 しかし、このまま屋内を逃げ切れるわけもなく。


「くそっ、前からも来やがった。」

「流石に相対するか…。」


前からもコーローウルルクが来たことによって、挟み撃ち状態となってしまった。エヴィラが槍を取り出し、構えだした。樹生も短剣を取り出そうとしたとき、


「…!こっちに来てください!」

「え?って、うわっ。」


何かに気が付いたアナが、樹生を引っ張って部屋の中に入っていった。エヴィラもそれについていき、扉を閉めた。


「普通に考えて、部屋に入れば問題ないんですよ!元々調査が目的なのですから、これで」

「だからって、引っ張るなよ。」

「す、すみません…。咄嗟に思いついたので。」

「まあいいじゃないか。咄嗟のことだったが、中々に良い判断だったぞ。」


エヴィラがアナの行動を褒めると、アナはえへへと嬉しそうに照れていた。加えて、入ってきた扉を見ながらエヴィラは言った。


「それに、ウルルク達も部屋には入ってこないらしいからな。」

「本当だ。無理やり入ってこれそうなのにな。」

「それが教育によるものか、はたまた別の方法か…。」

「別の方法って…。」

「それにしてもこの部屋、物が多いですね。」


 アナの声により、質問が途切れてしまった。アナは、部屋の中を調べ始めていた。


「行動が早いな。」

「きっと、物置なのだろう。」

「一応、扉のほうも注意しながら調べるか。」


 三人は部屋を詮索し始めた。物をどかしたり、壁や床を叩いたり、時々扉を確認したり。しばらく時間がたった後、


「二人ともー、こちらに何かありますよ!」


あなが声をかけてきた。アナの方を振り向くと、家具や小物を色々とどかしていた。二人が寄って覗き込むと、アナは笑顔でとあるものを指差しながら言った。


「ほら、これを見てください!きっとこれ、隠し扉ですよ!」

「あ~。確かにそうだな。良く見つけたね。」


 アナは、誇らしそうに胸を張っていた。それを横目に、樹生はエヴィラに小さな声で言った。


「また隠し扉か。この世界、隠し扉が流行ってるとかあるの?」

「いやそういうのはないが。たった二回で、またとか言うな。」

「いや、まあ、そうなんだけどさ。」

「二人とも、何をこそこそ話しているのですか?」

「いや、何でもない。」

「ああ、関係ないことだからな。」

「もう、しっかりしてくださいよ。」


アナは、壁をペタペタと触りながら、二人の会話を指摘する。


「しかし、これどうやって開けるのでしょう?とってもありませんし、ここに扉があるってことしかわかりません。」

「ちょっと見せてくれないか。」


 アナは、扉の開け方について試行錯誤していた。嘆きを挙げたことによって、エヴィラが交代する。


「ふむ、ドアノブや取っ手はない。鍵穴やカードを入れるための仕組みも見当たらない。

 ふむ…。試しに魔力を…っお。」


 試しに魔力を扉に流したことによって、扉が反応し仕掛けが動く。ほかの二人も歓声を上げている。


「「おー」」

「すごいですね!こんなにすぐに開くなんて。」

「一体どうやって開けたんだ?って、おい。聞いてんのか?」


開けた方法について樹生が聞くと、エヴィラはブツブツと何か言いながら考え事をしていた。


「なぜ魔力に反応した?ワイガーは人間で、魔力を感知することはできないはず。使用人の中に悪魔種が?その場合、隠し扉を作る理由が…」ブツブツ

「おーい。大丈夫かー?」

「ッハ」


肩に手を置かれたことによって、正気に戻る。手を置いた樹生の方を勢いよく振り向く。その振り向きざまを見て、樹生も少々驚く。


「だ、大丈夫か?めちゃくちゃ悩んでいたようだけど。」

「あ、あぁ。大丈夫だ。心配させたな。」

「まあ、大丈夫そうならいいんだが。」

「何しているんですか?私、先に行っちゃいますよ。」


アナが先に、扉の中に入る。声に気づいた二人もそれに続く。


 魔力に反応して開かれた扉の先は、その扉の仕掛けに呼応するかのように組み変わり、廊下を作り出した。作り出された道を、三人は恐る恐る進む。壁には明かりがついており、今でも使われていることがうかがえる。

 進み続けると、一つの扉が見えてくる。三人は扉の前に立つ。


「開けますね。」

「ちょっと待て。」

「?どうしましたか。」

「隠し扉の先の部屋だ。それだけ隠したかった何かがあるのは間違いない。そのため、もしかしたら罠があるかもしれない。」

「えっ!ではどうしましょう。」

「私が開けよう。私なら、罠に対処することができる。」

「なら、お願いします。」


エヴィラの言葉によって、扉を開けるのがエヴィラに変わる。


「では、いくぞ。」


 その言葉とともに、エヴィラは扉を開ける。扉を開けた瞬間に音や仕掛けが起こった形跡がないため、罠がないと思われる。それにより後ろにいた二人は安堵した。


「ふぅ。どうやら、罠はないみたいだな。」

「そうですね。エヴィラさん、何しているんですか?立ち止まってないで、早く入ってください。」

「…?どうしたんだ、エヴィラ?」


 二人は、なかなか中に入らないエヴィラに疑問を持つ。エヴィラは、こちらを振り向かずに口を開く。


「君たち、入るのならば、少々覚悟を持って入ったほうがいい。」

「覚悟って、そんなにやばいのがあるのか?」

「この仕事を引き受けた時点で、覚悟はついています。何が来ても大丈夫です。」

「そうか。…なら、入ってみなさい。」


 エヴィラが中に入ったことによって、二人も部屋の中に入ることができるようになった。


「っな!」

「これって…!」


 二人が部屋の中を確認すると、驚愕で言葉を失った。なぜなら、この隠し部屋は、


攫われた子供たちが監禁されている、牢屋だったからだ。

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