第19話 裏口からの侵入欲


「…い、…きろ。お…、め…ませ。おい!起きろ!」

「っは!」


 樹生が目を覚ますと、辺りの景色は外に変わっていた。どうやら、寝ていたらしい。


「イツツ、一体何が。」

「ほら、君も起きろ!いつまで寝ているんだ。」

「ん、ん~。」


エヴィラは、樹生を起こした後、アナも起こし始めた。樹生は頭を押さえながら上体を起こし、辺りを確認し始めた。


「あれ、なんでこんなとこで寝てるんだ?何か忘れているような。」

「ほら、起きろ!二度寝をしようとするな!」

「ん〜、何だよ〜?って、あれ?ここは?」


 アナも目が覚め、自分の状況を理解する。


「ほら君たち。起きたなら立て。やるべきことがあるだろう?」


 その言葉を聞いたアナが、何かを思い出したかのように、勢い良く立ち上がる。


「そうですよ!こんなところで寝ている場合じゃありません!


!」


「っ!は~、やはりか。」

「そうだったっけ?」


 アナは突然、そのようなことを口走った。それを聞いたエヴィラはため息をつき、樹生はその言葉を聞いても納得できないような顔をしていた。


「何をぼさっとしているんですか。ほら、早くいきますよ!」


今度は、アナが他二人を急かした。樹生はなにか悩みながらもアナについていこうとする。


「はぁ。君たち、ちょっと待て。」


しかし、エヴィラがそれを制止した。


「どうしたんですか?」

「君たちが今やるべきことは、それではない。」

「…?何を言っているのですか?」


アナは不思議そうな目でエヴィラを見た。そんなエヴィラは、二人を落ち着かせるような動きをしながら座るのを促した。


「まあまあ落ち着いて。いったんそこに座りなさい。」

「僕は別に落ち着いていますが。」

「一体どうしたんだよ。国に行くこと自体は、間違いじゃないんじゃないか?」

「まあまあ。」


 樹生の質問にあえて答えず、二人の目の前に立った。二人を座らせると、エヴィラは槍を取り出した。


「二人とも、この槍の先端をよく見てくれ。」

「あぁ。」

「分かりました。」

「いいか、しっかり見てろよ。

 …『乱怪―クレイズ―』」

「「…!っう」」


 槍の先端が光ったかと思うと、エヴィラが魔法を詠唱した。光を見た二人が頭を押さえ始める。


「イッ、いきなり何するんだよ。」

「そうですよ!」

「まあまあ、君たちの頭痛はどうでもいいことだ。」

「「どうでもよくない(です)!」」

「ハハハ。…さて、君たちが今やるべきことは何だい?」

「やるべきこと?」

「ほら、あるだろ?託された仕事が。」

「やるべきこと?

 …!そうですよ!やるべきことがありますよ!

 早く、ワイガー・セレバの所に向かって、事件を解決しないと!」


 エヴィラの魔法によって、二人は記憶を取り戻した。だんだんと記憶が鮮明になって来た二人は、今の状況に困惑する。


「ってあれ?なんで外にいるんですか?さっきまで屋敷の中にいたのに。」

「何なら、そのワイガーと面会してたはずだ。」

「おかしいですね。外に出た記憶はないはずですが。」

「いやぁ、良かった良かった。記憶を取り戻したようだね。」

「おい、何か知ってるのか?」


 二人の困惑した様子を見て、エヴィラは安心していた。そのエヴィラを見て、今の状況について何か知っているのか、樹生は聞いた。


「ああ、知っているとも。」

「じゃあ、教えてくれないか。」

「良いだろう。だが、時間もない。歩きながら説明しよう。」


 エヴィラが歩き始めたので、それに二人はついていく。そして、エヴィラが説明を始めた。


「簡単に今の状況を説明すると。君たちは催眠を受けて、屋敷から追い出されたのだ。」

「さ、催眠?」


 エヴィラが語った詳細は、次のような感じだった。

 まず、謎の機械を見たことによって催眠にかかり、眠らされてしまう。その間に、屋敷の外に放り出される。記憶の一部忘却や改変に関しては、催眠によって行われたこと。エヴィラが記憶を失わずにいられたのは、欲によって意識を保っていたかららしい。そして、


「っえ、正面から入れないのですか?!」

「ああ。推測だがな。」


そう、正面の門から入れないのだ。


「な、なんで?」

「相手からしてみれば、私たちは記憶を改変されて、もうこちらへは来ないと考えているはずだ。そんな中、私たちが堂々と正面から訪問すれば、怪しまれるだろう?」

「まあ、普通に考えればそうか。」

「た、確かに。」


 エヴィラは理由を述べながら門を通り過ぎる。


「じゃあどうやって入るんだよ。」

「そうですよ!門から入れないなら、入る方法なんてないじゃないですか。」


二人は、当然の疑問をぶつける。しかし、正規の方法では入れないとなると、入る方法はもはやあれしかない。


「まさか、侵入するだなんて言いませんよね?」

「おお、よくわかってるじゃないか。」

「えっ?」

「侵入するんだよ。裏口からな。」

「えええええ!」


アナはエヴィラの返答に驚く。まさか自分が悪事を行う羽目になるのだから。


「そ、それは悪いことでは!」

「相手の悪事をつかむためだ。それくらいしなければつかめるものもつかめない。」

「し、しかし」

「それに、私から見れば、彼は100%黒だ。しかし、それを証明するための証拠を持ち得てない。故に、このような方法をとってでも確実に証拠手に入れなければならないんだ。」

「…。」


 なんだかんだ、エヴィラも犯人特定に乗り気なのがよく伝わる。しかし、アナは犯人特定のためとはいえ、不法侵入はいかがなものかと悩み気味だ。そんな中、樹生は状況を理解し納得したかのように声を上げる。


「…なるほどな。確かに、話を聞く限り、俺もあいつを怪しく感じる。いいぜ、俺はやるよ。さあ、やるんだったらさっさとやろう。」

「おぉ、君ならそう言ってくれると信じていたよ。」


樹生は、エヴィラの意見に同意し、行動を催促した。二人がやる気に満ちている中、あと一人が動かないわけにもいかなく、


「ちょっと待ってください。何、二人だけで盛り上がっているのですか。」

「ん?どうしたんだ?」

「君は、悪いことはできないんだろう?なら、最悪帰ってもらっても構わないが。」

「帰りません!私も行きます!今やるべきことは、事件解決のための調査なのですから。」


アナも一緒に行くと宣言し、三人で侵入することが決まった。


「さて、皆の意見も聞けたことだし、早速裏口について教える。」


 どうやらその裏口とは、三人が眠らされているときに放り出されたものらしい。そのため、催眠が効いていなかったエヴィラは覚えていた。


「そして、その裏口の場所というのが、ここだ。」


 ここと言って指をさした場所は、ただの塀だった。特段、ほかの塀との違いは見受けられない。二人が疑問を持った顔をしていると、それに気づいたかのようにエヴィラが答えた。


「まあ、君たちが疑問を持つのも分かる。しかし、裏口…いや隠し扉か。隠し扉は周りからわからないように作られている。」

「そんくらい知ってるよ。」

「そうかそうか。こことここを叩いてみると違いが分かるぞ。」

「本当ですか?」コンコン


 アナが叩いてみると、確かにエヴィラが指をさした場所だけ音が違って聞こえた。


「本当だ!」

「そうだろう。

 …しかし、こちら側からは開けることができないんだ。」

「何でですか?」

「運び出されるときに見て、さらに君たちを起こす前に試してみたんだ。だが、結果はお察しの通りさ。」


 扉が空いていないどころか、周りの塀との違和感すらない時点で、努力が無意味になってしまったことがわかる。


「困ったことに魔法の対策もされていてね。この感じだと聖法も対策されていると思うよ。」

「そ、そんな。じゃあ、手詰まりってことですか?!」


 明らかに八方塞がりになってしまったような口調でエヴィラは言う。アナは、その言葉を聞いて落胆する。だが、エヴィラは言葉のわりに、表情には余裕があった。


「そう落胆するな。方法がないわけではない。」

「え、そうなのですか?!」

「ほう、一体どんな方法なんだ。」


 エヴィラが考えている方法とやらを、二人は聞く。そうすると、エヴィラは樹生の方を向き歩み寄る。


「な、何だよ。」

「方法は至って単純。君のを使うんだよ。」


「あのって…まさか。」

「その、まさかだよ。」


「…?」

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