第18話 貴族に懐疑欲

 時間は変わって、道の途中。樹生たち3人は、セレバ家の屋敷に向かっていた。


「それよりさ、なんであの時、自分が行くだなんて言ったんだ?」

「あれか…。特別な理由はないさ。あの時言った通り、あのままじゃ埒が明かなかった。だから、私が最適な案を提案したわけだ。」

「ほーん。てっきりお前は、早く国に行くために急かすかと思ったよ。」

「まあ、それでもよかったのだが、なんとなくな。別に、私たちの目的は重要ではあるが最優先にしなくてもいいからな。このように、寄り道しても問題はないのさ。」

「なるほどね。」

「でも、そのおかげで、僕はこのように調査に行くことができました。ありがとうございます!」

「ふっ、気にするな。

 さて、もうそろそろで着くぞ。」


 話しながら道を歩いていると、一際大きな屋敷が見えてきた。どうやら、ここがセレバ家の屋敷だろう。


「わぁ、大きいですね。」

「いかにも貴族がいそうなやしきだな。」

「まあ、実際に貴族がいるのだがな。」


軽口を叩きながら、門の傍に向かう。門の端には、呼び鈴のような機械が取り付けられていた。


「ほらアナ、君が押しなさい。今回、私たちは君の付き添いでしかないからな。」

「わ、分かりました。

 フ―、ハー、よし!」


 深呼吸をした後、アナは機械のボタンを押した。


「お忙しいところ失礼します。ウーロンド王国軍所属のアナ・リエルです。この度は、昨日起こった事件について調査のため伺いました。どうか、中に入れていただけないでしょうか。」


 アナは、丁寧に挨拶した。しかし、返事は返ってこなかった。聞こえなかったのかと、もう一度挨拶しようとすると、その瞬間に門が開いた。どうやら、届いていたらしい。


「これって、入ってもいいってことなのかな?」


アナが不安そうに尋ねる。


「いいんじゃないかな、多分。門が開いたんだし、入ってもいいよって合図なのかも。」

「だ、だよね。」

「まあ、とりあえず入るとするか。」


 アナや樹生は恐る恐る門をくぐった。それに比べて、エヴィラは堂々としていた。

 扉を開け中に入ると、異様なくらいに人がいなかった。その様子は、どこか不気味で、アナは少し震えていた。

 あたりを見渡すと、突然声がかけられる。


「あなた方が、調査に参られたアナ様方でよろしいでしょうか。」


いつの間にか、正面にメイドのような格好の獣人が立っていた。


「ヒャア!」


アナは、突然声をかけられたことに驚き声を上げた。しかし、メイドは気にせずに淡々と話を続ける。


「ご主人様がお待ちになっています。お部屋までご案内いたします。」


 そう言うと、メイドは後ろを振り向き歩いていってしまった。樹生達はメイドについていった。

 しばらくすると、メイドはとある部屋の前で止まった。その部屋の扉は、ほかの部屋のものと比べて、一際豪華だった。おそらく、この部屋に目的の人物がいるのだろう。


―趣味悪そうだな。


コンコン

「ワイガー様、訪問者を連れてまいりました。」

「うむ、入り給え。」


部屋の主に了承を得ると、メイドは扉を開けた。

 部屋には、一人の男が座っていた。背中を向けていて顔がよく見えないが、彼がワイガーなのだろう。


「失礼します。こちらの三名の方が、今回の訪問者です。」

「うむ、ご苦労。下がり給え。」

「はい。失礼しました。」


メイドは、一礼すると部屋を出ていった。


「さて、君たちは一体誰なのかな。」

「は、はい。僕は、ウーロンド王国軍所属のアナ・リエルです。」

「私は、エヴィラ・イールという者だ。」

「俺は、森川樹生だ。」

「ふむ。して、何の用でこちらに訪問してきたのかな?」

「僕たちは、昨日起こった事件についてワイガーさんに聞き込み調査を行うために伺いました。失礼かと思いますが、あなた様がワイガー・セレバさんでお間違いないですか?」

「うむ、いかにも。私こそが、『ワイガー・セレバ』だ。」


 そう言いながら、ワイガーが振り向いた。


―うわ。いかにも、いやな貴族みたいな見た目してるな。本当にいるんだなこういうやつ。

「そして、小娘よ。私に対しての敬称は、ではなくが正しい。以後、気を付けるように。」

「あ、す、すみませんでした…。」

「まあ、いいさ。

 それで、事件の調査だったか。」

「はい、事件の詳細なのですが…」

「いや、説明しなくても大丈夫だ。私が治めている村の出来事だからな。私も把握しているさ。

 それで、君たちは私に疑いをかけているのかい?」


 すると、ワイガーは樹生たちを睨み、威圧してきた。アナはおびえてしまい、声が出なくなってしまった。


「はぁ」


それを見かねたエヴィラは、ため息をつきながらその質問に返答した。


「そういうわけではありません。」

「なに?」

「確かに、現状ではあなたも容疑者にあげられています。」

「何だと?!」

「落ち着いてください。私はと言いました。つまり、容疑者はあなただけではありません。」

「…なるほど。続けてみろ。」

「あなたのアリバイが証明できるものがあればそれを提示してください。そうすれば、あなたの疑いが晴れることになります。

 また、事件に関する情報も、持っているのであれば提示してくれるとありがたいです。今後の事件の調査につながるので。」


 エヴィラが話し終わると、ワイガーは黙り込んでしまった。何か考えている様子だ。ワイガーは、一つうなずくとこちらを向いて口を開いた。


「…そういうことだったのか。下手に疑ってすまなかったな。」

「い、いえ。こちらこそ、疑われるような言葉選びをしてしまい、申し訳ございません。」


 アナが謝罪すると、ワイガーはその謝罪を受け取ったかのように一つうなずき、机のほうに向かった。


「そういうことなら、私のアリバイの証明、そして事件の助力になるような資料を渡そうじゃないか。」

「本当ですか?!ありがとうございます。」


 ワイガーは、そういいながら引き出しから何かものを取り出そうとした。


「そうだ。君たち、資料を見る前にいったんこれを見てくれ。」

「?何ですか?」


 ワイガーは何かを取り出し、それを樹生たちに向けてきた。それは、次第に光だし、ワイガーは何かブツブツと言い出した。


「それは、いっ、た、い…?」

「すぐ忘…さ、この…も、も…なに…も。」

「これ、は。」

「め…じ、ねむ…け。」


 樹生たちは瞼が重くなり、次第に眠りについてしまった。

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