第17話 折衷案の提案欲
「アナ、本気で言っているのか?」
ライジの目線の先には、天高く手を挙げているアナがいた。アナが放った言葉に衝撃を受けている。
「ほ、本気です!」
ライジの質問に、詰まりながらも迷いなく答えた。
「まあ、君が本気だったとしても許可を出すわけにはいかないのだがな。」
「な、何でですか!?」
その解を否定するように、ライジは答えた。その言葉に理由なく納得できるはずもなく、アナは抗議した。
「そんなもの、危険だからに決まっているだろ!」
「…っ!」
「君はまだ見習いの学生だ。十全な知識なしに、一体何ができるというのだ。
それに、愉快犯の可能性のある人物の懐に潜り込むんだぞ。それがどれほど危険なのか分かっているのか!」
「…」
ライジは、もっともな理由を述べた。述べた理由とその気迫に、アナは何も言い返せなかった。すると、
「私は、あなたでも構いません。」
トリスがアナを肯定した。
「誰であろうとかまいません。私の息子を助けてくれるのなら。」
肯定というよりも、半分妥協だろうか。しかし、彼女の言葉には息子を助けたいという思いがこもっていた。彼女は、アナに近寄り肩をつかんだ。そして懇願した。
「どうかお願いします。一刻も早く息子を助けてください!」
「ちょっと、トリスさん!落ち着いてください。私が正式に調査を行いますから。」
だが、ライジはそれを抑えた。
「何日待てばいいのですか?」
「…えっ。」
「後、どれだけ待てばいいのですか?もはや自分でも動けない状況で、コートが生きているかもわからない状況で、さらにどれだけ待たなければいけないのですか!私は一刻も早く、コートの顔を見たいのです!」
これは紛れもない、心からの訴えだ。ライジはこの言葉を聞いてうろたえる。しかし、彼も守るべき大切な生徒を危険な目に合わせたくないのだ。それに、彼にもやるべきことがある。だが、目の前で困っている人を無視してこの場を去ることを、彼の正義が許さなかったのだろう。彼は、そんな責任と正義の間で苛まれていた。
傍から見れば、三人でもめているように見えるだろう。事実、もめていることに違いはないのだから。一人は、相手に気圧され少々萎縮気味。一人は、相手を掴み懇願している。一人は、どのようにすればいいか悩んでいる。このままだと、話が進まず時間が過ぎていく。最悪、危険な選択がなされる可能性すらある。
そんな状況を見て、あきれた声で悪魔がとある提案をした。
「なら、私たちがついていこう。」
ライジの後方から、エヴィラが声を上げた。その提案を聞いた樹生は、瞬時にエヴィラの方を向き驚いた顔をした。
「え、マジで?」
「ああ、
エヴィラの提案は、まさしく鶴の一声と言えるだろう。実力や経験のあるエヴィラがついていくことによって、アナの安全がある程度確保され、トリスの願いも受け入れている。
しかし、この提案に苦い顔をしているものが一人いる。
「しかし、それではあなた方にまた迷惑が…。」
そう、ライジだ。ライジの今の仕事は、安全にウーロンド王国に二人を送り届けること。その理由も、借りを返すというものであり、再び借りを作ってしまう羽目になるのだ。
そんな考えを見抜き、ため息をつきながら答える。
「はぁ。その考えはもうやめてくれ。貸し借りの考えは正直めんどくさい。」
「なっ!しかし、それを抜きにしても、あなた方に迷惑は、」
「迷惑だと感じていない。大方、自分の仕事だから他人に巻き込みたくない、とか考えているのだろう?」
「っ!」
どうやら、当たっていたらしい。ライジは、黙ってしまった。
「だから、君は君のできることをやってくれ。」
「…!」
その言葉を聞くと、何かに気付いたように顔を上げた。
「なるべく早く…そうだな、できるのなら明日までに来てほしいね。」
「ふふ、任せたまえ。確実に、明日に来てやるさ。」
「期待してるよ。」
アナや樹生は、その会話を理解できなかった。しかし、当人たちは理解したかのような会話を繰り広げた。
ライジは、トリスに向き直り、
「今回の調査は、アナに任せようと思います。出発時刻は今から1時間後。詳しく調査してほしいことがあれば、アナにお伝えください。」
そう語った。
アナは、驚きすぎて言葉すら出なかった。そんなアナの肩に手を置きながら、ライジは語る。
「アナ、この場は君に任せるとする。もしも困ったら、エヴィラさんを頼りなさい。君の活躍を期待してるよ。」
「えっ、あっ、はい!がんばります!」
アナは驚きながらも、託された想いを汲み取り元気よく返事した。
「ではエヴィラさん、あとは任せますね。」
「ああ、急いで行ってこい。」
その後、ライジのみが車に乗り、ウーロンド王国へ行った。
残った樹生たちは、早速調査の準備を始めた。
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