第14話 植物と破壊欲

「な、何だこれは?!」


 ジュディが銃弾を放った瞬間、樹生を守るように植物が急速に生え、銃弾を防いだ。

 あまりにも唐突で不可思議な出来事に、ジュディどころかエヴィラも驚き、困惑していた。そう、あの博識なエヴィラでさえも、その出来事を理解できなかったのだ。


―なぜ植物が生えてきた?あれは、ジュディが引き金を引く直前に生え始めたように見えた。1秒にも満たない時間でジュディの身長を超えるほどの植物が生えるのも異常だが、それ以上にここは高度3000mだぞ!?植物が生きていける環境じゃない!


 いや、むしろ博識だからこそ理解が追いつかなかったのだろう。生えたタイミング、植物が生える速度、そして植物が生えるはずもない環境、何もかもが異常で、それを理解することをむしろ頭が拒否しているようだった。

 一方、ジュディは困惑しながらも更に銃弾を撃ち続けた。


バン バン バン

「クソ!なぜ、銃弾が貫通しないのですか?!」

バン バン カチッ カチッ

「ック、弾が切れましたか。ならば…」


 思考も追いつかないまま弾を打ち続けた結果、弾切れを起こしてしまった。しかし、瞬時に次の策を講じた。


「ガーティクト!先にこいつを殺りなさい!」


 ガーティクトに標的を変えるよう命令した。その命令とともに、ガーティクトはエヴィラへの攻撃をやめ、樹生に向かっていった。


「なっ、待て!」

バン キンッ

「少しは時間を稼ぎませんとね。」


 エヴィラは、樹生のもとに行こうとしたが、ジュディによって阻まれてしまった。ジュディはすでに弾替えを終えており、銃でエヴィラを足止めしている。

 その数秒の間にガーティクトは樹生の眼の前まで来ており、腕の刃で先程生えた植物を切り倒していた。


「…!」

「っな、まずい。樹生!」


 そして、ガーティクトは腕を振り上げ、樹生を斬り伏せようとしていた。


―切られる!頼む、止まってくれ!


 刃が振り下ろされる瞬間、植物がひとりでに動きガーティクトの腕を縛り上げた。ガーティクトはそれを無視して無理やり腕を動かそうとしたが、縛り上げている植物の力が強かったのか、腕の装甲が壊れてしまった。

 樹生は植物がひとりでに動いた一部始終を見て、もしやと考えた。


―俺が思ったから、望んだから、その通りに植物が動いたのか?偶然…かもしれないけど…。


異常な速度で成長し、樹生が望んだように植物が動いた。それを樹生は偶然だと思えなかった。


 一方、ジュディは想定外の状況に焦っていた。


―一体どういうことだ?ガーティクトがトドメをさせないどころか、逆に破壊されているではないか。こうなれば…。


 すると、ジュディはブツブツと何か言いながら懐から物を取り出そうとした。


「まぁ、いいでしょう。目的は既に達成出来ているのです。彼らの生死など、最初から関係ない。」


 ジュディが取り出したのは、棒状のボタン。エヴィラはその行動に気付き、


「まさか...! 逃がすか!拘束…」

「もう遅い!」


 しかし、エヴィラが魔法を発動させる前に、ジュディはそのボタンを押した。すると、ジュディの体は粒子状となり霧散した。


「なっ?!あの技術は…。」


 ジュディは逃げ切った。しかし、すべての脅威が去った訳では無い。


ガシャン!


 大きな音の先では、無理やり縛られている腕を外したガーティクトが佇んでいた。


ギギギギギ…ゴギギ


まだ動けるらしい。どうやら司令塔がいなくなっても最後に下された命令を執行するようだ。


「う、嘘だろ…。まだ動くのかよ…。」


 樹生は未だ動けず、ガーティクトに恐怖するだけだった。しかし、ガーティクトは無情にも残る腕を振り上げ、樹生を殺そうとする。


―…動け、俺の体!


 動け、動けと自分に言い聞かせる。だが、限界が近いのか体を動かすことは叶わなかった。

 こうしている間にも腕は振り下ろされてしまう。もう駄目だ、と思った瞬間。


「『乱怪―クレイズ―』」


 その声とともに、振り下ろされた腕は樹生の眼の前で止まった。


「お前の相手はこの私だ。余所見をするな。」


 その声に反応するように、ガーティクトはエヴィラの方を向いた。しかも、今にも襲いかかりそうな状態だ。


「どうした攻撃しないのか?」


 その言葉を皮切りに、ガーティクトはエヴィラに一気に詰め寄り、攻撃した。スピードを乗せた攻撃がエヴィラに襲いかかる。しかし、槍を器用に使いガーティクトの攻撃をいなす。

 その後も、先程のような攻防が続く。だが、先程と大きく違うことはガーティクトの腕が一本ないことだ。そのため、攻撃のスピードがわずかに遅くなり隙が生まれやすくなっていた。


キンッ!キンッ!…ガシャン!


 隙をついた反撃が、徐々にガーティクトの体を蝕む。体の至る所には傷ができ、さらに攻撃のスピードが遅くなる。特に、エヴィラは足を重点的に狙っていたため、ガーティクトは体の支えが脆くなりわずかにフラフラしている。


 そして、ガーティクトが腕の横薙ぎをしたとき、エヴィラはそれを狙っていたのかニヤリと笑いながら大きく弾いた。それにより、遂に大きな隙が生まれた。

 エヴィラが左足を上げると、足が仄かに光り、筋肉が膨張した。


「『剛筋―マレーストルグ―』!」


 その言葉とともに、強烈な前蹴りを繰り出した。ガーティクトはその攻撃をモロに受けてしまう。そして、足の傷によって支えが効かなくなり、後ろへ吹っ飛ぶ。

 吹っ飛ばされた後、ガーティクトの足は崩れ倒れてしまう。もう、まともに戦える状態ではない。


「もうここまでだな。」


 エヴィラは勝利を確信した。


「特別恨みを持っているわけではない。ただ20年前、ここの調査を邪魔されたことだけは許せなかった。」

―あっ、仲間のこと別に恨んでないのか。

「君さえいなければ、ここの調査がもう少し早く終わるはずだった。」

―どこまでも自分本位だな。…ん?


 樹生がエヴィラの発言に困惑していると、とある事に気付いた。ガーティクトの左腕が変形していたのだ。壊れて変形したのではない。明らかに、元の形とは別の機能を持った形へと変化していたのだ。よく見てみると、それは銃のような砲のような形をしていた。

 次第に、先端に光が溜まっていき微小にバチバチと聞こえてくる。

 樹生はエヴィラが気づいているのか分からなかったが、声を出す体力もなく知らせる方法がなかった。だが、気づいたからにはなんとしてでもあの攻撃を止めなければならない。その先を考えている余裕なんてなかった。ただ、眼の前の危機に必死だった。


―せめて、あれさえ止められれば。

 一瞬でいい。エヴィラが攻撃する時間を与えられればいい。

 あれを止める力を…。


無意識に伸ばした腕は、ガーティクトへと向けられていた。そして、声は自ずと出ていた。


「…し、縛れ…!」


 次の瞬間、ガーティクトの足元から植物が生えてきて、体や腕を雁字搦めにした。砲口も明後日の方向に向いており、放たれたとしても被害は少ないはずだ。


「流石だ。」


 ニヤリと口角を上げながらエヴィラは呟いた。

 エヴィラは槍を逆手に持ち、後ろに構えた。構えの体勢を取り目をつむると、足元に魔法陣が浮かび上がり、電気が走る。その電気はエヴィラの周囲を囲み、徐々に槍へと集中する。魔法陣が収縮してくと、槍の電気は次第に勢いを増す。そして、槍は電気をまとった雷槍へと姿を変える。


「さあ、君の最期を派手なものへと変えてやろう。」


 次の瞬間、開眼とともに足を踏み込む。そして、その名を叫ぶ。


「『雷槍…―ゼラウロス―』!」


 エヴィラは槍を思いっきりガーティクトに向けて投げた。雷を纏った槍は、一直線にガーティクトの胴へと向かっていく。植物で縛られているためガーティクトは動けず、その攻撃から逃れる方法はゼロに等しい。そんなことを考え、いや計算している時間すらないだろう。

 槍は一瞬でガーティクトを貫いた。また、纏っていた雷によって各部機械装甲はことごとく破壊された。ガーティクトの内側から光が漏れ、そして、


ピー、ピー、ピー

ドッカーン!!!


爆発した。

 爆発の勢いはとてつもなく、拘束していた植物は灰となり、ガーティクトの装甲が辺りに飛び散る。樹生は爆風によって壁に追いやられていた。


「…!ッガ」


 装甲の一部が樹生の頭目掛けて飛んでいき、運悪く当たってしまった。それにより、彼の意識は闇へと沈んでいった。

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