第13話 機械兵と妨害欲

 要塞の地下室にて、樹生への攻撃を防いだエヴィラとガーティクトが対峙していた。


「おや、これはこれは。エヴィラさんではないですか。」


 ガーティクトの後ろに立つ男が、まるでエヴィラを知っているかのような口ぶりで話してきた。


「君は一体誰だ?私は君を知らないのだが。」


 どうやら、相手が一方的に知っているらしい。


「これは失礼。自己紹介がまだでしたね。私の名前は『ジョディ・ノイマー』。レイノール軍機動部隊の一隊員です。どうぞよろしくお願いします。」

「レイノール軍…やはり、あの王国の刺客か。」


 レイノール…どうやら、あの王国に関係する人物のようだ。エヴィラが予測していたことが当たってしまったようだ。


「ええ、あなた達にとってはそうでしょうね。」


 ジョディは含みを持たせて言った。


「…ということは、君には別の目的があると?」

「クク、ええそうです。最も、あなた達も目的のうちのひとつなのですが。

 やりなさい、ガーティクト。」


 ジュディが指示すると、ガーティクトはエヴィラに攻撃を仕掛けた。

 まず、ガーティクトはその強靭な腕をエヴィラに向けて放った。しかし、エヴィラは冷静にその攻撃をかわした。すかさず、放たれた腕から槍を取り戻し、構えて臨戦態勢に入る。

 ガーティクトは、次々に攻撃を放つ。ときに、腕を刃に変え、相手を切り刻もうとする。 だが、その攻撃がエヴィラに届くことはなかった。どの攻撃も槍で防ぎながら、うまく躱していた。

 しかし、エヴィラにも余裕があるわけではなかった。


「おや?防戦一方で、なかなか攻撃しませんね。一体どうしたんですか?」


攻撃を防いだり、躱したりしているばかりで、中々反撃をしていなかったのだ。表情も、どこか余裕がなく険しくなっている。


―この姿…やはり…。

「いつまでも防いでばかりでは、思わぬ襲撃に対応できないものですよ。

 …このようにね。」


 すると、ジュディは懐から何かを取り出し、それをエヴィラに向けた。そして次の瞬間、


バン


 発砲音が聞こえ、火薬の匂いが部屋中に充満した。

 樹生はそれに対して、嫌なものを感じた。実物を見たことがなくても知識として知っている、人類が生み出した負の遺産。


「…っ!なんで、銃が。」


 ジュディの手にあったのは銃だった。形状から、ピストルだと推測される。


「クククッ。人間種の技術であれば、このような武器などいくらでも作り出せるのですよ。」

―異世界だからってバカにしてたが、技術があれば銃くらい作れるよな。

「しかし、あなたには効かないのでしょうね。」


 エヴィラの方を見れば、槍でガーティクトの刃を防ぎ、銃の弾は半透明の障壁で防がれていた。


「私が君のことを考えていないとでも思っていたのか。」


 有効な攻撃を与えられずとも、しっかりと周りの状況を把握し防御に徹している。


「いえ、流石に思っていませんよ。」

―ですが、有効打を与えられてないのは、少々困りますね。


―…隙がない。前文明の遺物とはいえ、やはりバカにはできない性能ということか。


 互いに攻撃が届かず、拮抗した状態が続く。ジュディはその状況にだんだんと苛立ちを隠せずにいる。

 そんな戦いの最中、樹生は必死に動き出そうとしていた。


―ここにいたら、巻き添えで殺されちまう。なんとか俺だけでも逃げないと。あんなわけわからないやつに勝てるわけがない。


 そう、樹生は逃げようとしてたのだ。自分だけ助かろうとする姑息な考えを持って。そして、未知の強敵に対する恐怖心から逃げるように、その場から立ち去ろうとした。

 静かに、静かに。音を立てずになんとか立ち上がり、出口の方へ痛みを堪えながら足を動かした。そう、誰にもバレないように。

 しかし、


バン

「ッガ」

「おや、気づかれないとでも思っていたのですか?」


ジュディに足を撃ち抜かれてしまった。


「ア”ア”ア”ア”ア”」

「足を擦る音、小さな瓦礫や石を蹴る音、気づく要素が多すぎる。本当に気づかれないように動いたのですか?間抜けすぎて笑いそうになりましたよ。」


 樹生に銃口を向けたまま、ジュディは淡々と説明した。追い詰めるように、一歩一歩距離を詰めながら。


「あちらは時間がかかりそうだ。ならば、その間に簡単な仕事を済ませてしまえばいい。そのほうが効率的だ。」

「樹生!」

ウィーン ジャキン

「ッ!クソッ、邪魔だ!」

「ガーティクト、しっかりとそこで抑えておきなさい。」


 エヴィラは樹生を助けようとしたが、ガーティクトに邪魔され近寄ることができなかった。


 樹生は、今の状況に理解が追いついていないのか、はたまた理解ができた上で恐怖が思考を支配しているのか、声すら出せず眼の前に迫る銃口に怯えるばかりだった。


―あぁ、こっちに来てから散々だ。いきなり世界の命運を託されたかと思えば人体実験をされ、起きたら国から逃げると言われる始末。

 この遺跡だって、逃げるために立ち寄った場所というわけでもなく、あいつの研究のために来たわけだし、俺の意志があったわけじゃない。


 眼の前に迫る死の恐怖、銃という兵器に対して、彼はあまりにも無力だった。逃げようとしたところで、銃は彼を容易に貫くことができる。もうどうしようもなかった。樹生は、その死を受け入れるように、逃げることを諦めてしまった。


―ああ、死ぬのか。俺は死んでしまうのか。

「おや、逃げる気はないのですか?死を受け入れるとは、中々に潔いですね。その姿勢、好感が持てます。」

―死を受け入れる?


 ジュディの些細な発言に、疑問を抱いた。自分自身が本当に死を受け入れているのか、そんなにも自分は死を簡単に受け入れるのか、と。


―嫌だ。

「ではそろそろ終わりにしましょうか。」

―死にたくない。

「安心してください。苦しまないように急所をしっかり狙いますから。」

―まだ生き続けたい。

「それでは、さようなら。」


―俺はまだ、生きなきゃいけないんだ!


 樹生は、放たれるかもしれない銃弾の事を考え、目を瞑ってしまった。

 そして、


バン


 銃弾が放たれた。


「っな?!」

「…!」


 しかし、その銃弾が樹生に届くことはなかった。いくら待っても、これ以上の痛みは感じず、樹生自身も少々困惑してしまった。

 樹生はその不思議な状況の真相を確認するために恐る恐る目を開けると、そこには


自分を守るかのように、が生えていた。

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