第12話 要塞と発見欲
樹生達は最後の家、いや要塞に入った。
中に入ると、そこは開けた場所となっていた。そして、壁にはいくつも扉があった。
「他の家に比べて中もかなり朽ちているが、それでも果てていないとなると、ここを造った人物の技術が伺えるな。」
他の家もそうなのだが、天候が変わりやすい山の上に建っている割には、家として機能するほど壊れていないのだ。もちろん、朽ち果てて完全に崩れている家もあるが。一体これは、先人の技術がすごいのか、はたまた別のなにかがあるのか。
そんなことはさておいて。早速、樹生たちは、各部屋を調べ始めた。
「…おお!他の家では得られなかった情報がどんどん出てくる!やはりここが一番重要だったか。」
エヴィラは、本を読みながら興奮していた。それに比べて樹生は、つまらなそうにそこらを歩いていた。文字が読めない以上できることがないと、いくつもの家を回ってそう考えたのだ。
結局、どの部屋でも同じ様にエヴィラは興奮し、樹生はつまらなそうにしていた。
そして、いくつか目の部屋で樹生がとあるものを見つけた。
「ん?これなんだ?」
樹生は、床に謎のくぼみを見つけた。そのくぼみをよく調べてみると、手を引っ掛けられるようになっていた。樹生は、なにかあるのではないかと思い、ヱヴィラを呼んだ。
「おーい、エヴィラ!」
「…」
しかし、エヴィラは本に集中しているのか、いくら呼んでも気が付かなかった。仕方ないので、樹生は近くまで寄って、気が付かせた。
「おい、エヴィラ。いつまで本を読んでんだ。こっちが呼んでるんだから気付けよ。」
「ん?ああ、樹生か。一体どうしたんだ?」
「ったく。あっちに変なくぼみがあったんだよ。今までの部屋にはなかったし、なんかあるかもな。」
「ふむ、確かに気になるな。ちょっと見せてくれ。」
早速、エヴィラはそのくぼみを調べ始めた。まずは、くぼみ自体をくまなく観察し、その後くぼみに手をかけて押したり引いたりした。すると、音が鳴り、そのくぼみと周辺の床が少し動いたような気がした。それに気がついたエヴィラは、くぼみの周りの床の埃などを払った。そこには、四角形状の線があった。
「こ、これって。」
「ただの線じゃないな。先ほどの現象、線とは見えない凹凸、そして手が収まるくぼみ。間違いない、これは扉だ。」
「まじか!」
樹生はその言葉を聞いて、驚きと同時に高揚感を得た。字が読めない以上、ここに来てから役立たずも同然だったので、自分が役に立てて嬉しかったのだろう。
「早速、開けてみようぜ。」
「いや、ここを開けるのは最後だ。先に他の部屋を調べ切ろう。」
「えー。」
樹生は落胆した。自分の発見が有用であったと、すぐに証明したかったのだ。しかし、エヴィラの判断も間違いではないだろう。本来の目的や効率性、さらには扉の先に潜む危険性を考慮した結果の判断だ。エヴィラの判断は、何も悪くないのだ。
しかし、樹生は不満だった。それは、何もできない自分に負い目を感じているのか、自分が役に立つことに必死になっている。つまり、焦っているのだ。彼が特別そういう性分だからではない。これは、日本人特有のものなのかもしれない。何もできていないと、役立たずで相手に迷惑をかけているのではないか、と心配になるのだ。
しばらくすると、エヴィラは調べ終わったのか、部屋を出た。しかし、樹生はそれについていかなかった。樹生はエヴィラが部屋を出て次の部屋に入ったことを確認すると、先ほどのくぼみのあった場所に戻り、そのくぼみに手をかけた。そして、そのくぼみを思いっきり引いた。
「ふん!...ッグ?!」
しかし、その扉はかなり重いのか、なかなか動かなかった。
「ック...うおぉぉぉ!開きやがれ!」
それでも、樹生は負けじと踏ん張り続けた。すると、
ゴゴゴゴゴ...
大きな音を立てながら、扉が開いた。
「うおっ?!やっと開いたか。
...これは、階段か?」
扉を開けると、そこには階段があった。どうやら下に続いているらしいが、下は暗くてよく見えない。
「階段ってことは、下になにかあるってことだよな。
…せっかくだし、覗いてみるか。」
樹生はあろう事か、一人で下に下りてしまった。
階段は螺旋状になっており、下りるとすぐに上の明かりが届かなくなってしまった。樹生は壁をつたいながら、慎重に下りていった。
上からの光が完全に届かなくなった頃、今度は下から光が届いてきた。どうやら、灯りがついている場所が下にはあるようだ。その光を頼りに下りていくと、ひとつの部屋にたどり着いた。
「明かりがついてる?…誰かいるのか?」
その部屋をちらりと覗くと、中は机や椅子だけではなく、何かしらの部品らしきものがそこらかしこに転がっていた。散らばっているものから推測するに、研究室か開発室だったとうかがえる。
「し、失礼しま~す…。」
樹生は、恐る恐る部屋に入っていった。
部屋はお世辞にもきれいとは言えず、床にはネジや歯車、鉄板などが転がっていた。それを避けながら、樹生は机のある場所に向かった。
机の上には、設計図のようなものや、スパナやドライバーに似た工具が置いてあった。そのうちの設計図を見て、樹生は目を輝かせた。
「うおぉぉ、すげぇ。異世界にもこういう機械みたいなものがあるんだなぁ。これ、エヴィラに渡したら喜ぶかなぁ?」
と、感心していた。やはり、自分が何もできていないことを悔やんでいたようで、せいかと呼べるものを見つけて樹生は目に見えて喜んでいた。
「確かに、それはあの方なら喜びそうなものですね。」
突如、樹生の後ろから声が聞こえた。恐る恐る後ろを振り向くと、一人の男がそこにいた。どこから現れたのか、そんな驚きと疑念に思考が囚われ樹生は声すら発せずそこに立ち尽くしてしまった。
「ですが、それよりももっと面白いものがあります。それならさらに喜ぶのではないでしょうか。
まあ、そんな喜ぶ顔すらあなたは見れないでしょうが。」
ドゴーーン!!
その言葉と同時に、部屋の隅から轟音が聞こえた。樹生はその音が発せられた場所を見ようとした瞬間、
ドゴォ
「カハッ」
体に大きな衝撃が加わり、壁までふっとばされてしまった。
「ガッ。だ、誰だ?」
なんとか意識を保ちながら前を向くとそこには、機械仕掛けの人型の存在がそこに佇んでいた。
「な、なんだ、あれは。」
「ククク、実に面白いでしょう?これこそが、この遺跡に隠されし兵器、『守護機械人形ガーティクト』です。」
「が、ガーティクト?」
口ぶりから察するに、この人型を仕掛けてきたのはあの男のようだ。樹生は、痛みに耐えながら、どの様にこの場を凌ぐか考えていた。
「まあ、あなたが詳細を知る必要はありません。どうせ死ぬのですから。」
死という言葉を軽々しく言ったその男の目は、軽さとは無縁の冷たさを感じた。
あの男は本気だ。樹生はそう察した。
「さあ、やりなさい。あれを殺すのです。」
男はガーティクトに命令を下した。樹生は眼の前に迫る死の危険からなんとか逃げようとしたが、痛みで思うように体が動かせなかった。
もうだめだ、と思ったその瞬間、
ヒュン
ガシャン!
槍がガーティクトの腕に突き刺さり、行動を止めた。
槍が放たれた場所を向くと、そこには
「おい、そこで何をやっている。」
エヴィラが立っていた。
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